ヴァンは、ワインのことですよね。葡萄酒のことであります。イタリアなら、「ヴィーノ」でしょうか。
福島慶子の随筆集に、『ヴァンは酒ならず』があります。フランスの面白い話がたくさん出てくる随筆集。
福島慶子の『ヴァンは酒ならず』でも分かるように、フランス人はヴァンをアルコール飲料とは思っていないみたいですね。食事のときのお供。日本での味噌汁に近いのでしょうか。ひとつにはフランス人は生水を飲みませんから。
好きなヴァンと、好きなフロマージュと、好きなパンさえあれば、もうなんにも要らない。そんな気持になることがあります。そしてまた、フロマージュには飽きるということがありません。なにしろ少なくとも千種のフロマージュがあるんだそうですからね。
好きなフロマージュに、「モンドール」があります。毎日毎日、「モンドール」が続いても文句は申しません。
モンドールはフランシュ・コンテ地方のフロマージュ。フランスとスイス国境の山岳地帯。スイス側でのフロマージュは、「ヴァシュラン・モンドール」の名前があります。
8月15日から、翌年の3月15日の間に限って生産されるフロマージュ。
「モン・ドール」が、「金の山」の意味であるのは、言うまでもないでしょう。
モンドールのあだ名は、「ラ・ボワット」(箱)。常に箱入りの状態でスプーンで食べるフロマージュだから。それくらいに柔らかいのです。
モンドールは必ず「サングル」の中に入っています。つまり「箱入りチーズ」。サングルとは、「エピセア」の樹皮で作った経木のこと。エピセアはモミの木に似ているんだそうですが。
エピセアの経木で巻き、さらには、エピセアの木で作った棚の上で熟成させるんだとこか。
もしもできることなら、エピセアの木で、スプーンを作りたいものですね。モンドールを掬って食べる木匙のために。
「彼は彼だけの時間と習慣を、また彼だけの洋服屋と帽子屋を、それにまた彼だけの健康法とぶどう酒を持っていた。」
ヘンリー・ジェイムズが、1893年に発表した小説『私的生活』に、そのような一節が出てきます。これは「メリフォント卿」について。
また、『私的生活』にはこんな描写も出てきます。
「………燕尾服と白いチョッキの対照だけを愛用するのはつつしんで ー
たとえば、黒や青や茶のビロードを、繊細な調和を作るネクタイや微妙な略式のシャツを、楽しんでいた。」
もちろん「メリフォント卿」の趣味について。
たぶん「ヴェルヴェット・ジャケット」 velvet jacket だったのでしょう。
どなたか白いヴェルヴェット・ジャケットを仕立てて頂けませんでしょうか。