ほうれん草とホールフォール

ほうれん草は、よく食べますよね。
たとえば、ほうれん草のおひたしだとか。私はあのほうれん草の根元の赤いところが、好き。仄かな甘味があって。
ほうれん草は英語で「スピナッチ」spinach というらしい。これは1530年頃からの英語なんだそうですね。フランス語の「エピナル」epinar
とも関係があって。
エピナルの古い形「エピナッシェ」epinache から出ているんだそうな。
ほうれん草の原産地は、中央アジア、アフガニスタン辺りだろうと、考えられています。そこからだんだんとヨオロッパにも。ヨオロッパでは、ドイツがはやいとのこと。ドイツからさらに、フランスへ。フランスから、イギリスへと。
12世紀のことなのでしょう。でも、イギリスにもたらされたのは、十六世紀のことなんだそうですね。

『ポパイ・ザ・セイラーマン』。1933年にアメリカのサミー・ラーナーが作詞作曲した歌。この歌の中に、ポパイがほうれん草を食べて元気になる歌詞が出てきます。この歌は、アメリカの子供にたくさんほうれん草を食べてもらおう。そんな狙いもあったとのことです。
ほうれん草には多くのヴィタミンが含まれているので。鉄分や亜鉛なども。
ほうれん草のサラダも美味しいものですね。ほうれん草をさっと洗って、水切りしておいて。ベーコンを適当に細かく切って、フライパンで炒める。炒めたベーコンをほうれん草の上にのせて、完成。
ワインやウイスキイなどにも合うこと、間違いなし。

「はうれんさうのひたし物、椎茸などにて飲懸け、ありがたい話ばかりして、」

これは世之介が一杯飲っている場面として。
井原西鶴の『好色一代男』に、そのように出てきます。江戸時代にほうれん草があったのは、間違いありませんね。
ほうれん草が出てくる辞典に、『紋切型辞典』があります。フランスの作家、フロベエルが書いた面白辞典であること、ご存じの通り。

「エピナールは胃をきよめる。プリュドムの名文句を忘れるべからず。」

そんなふうに説明しているのですが。
ここでの「プリュドム」は架空の人物。「好きならほうれん草を食べるが良い」と、言ったお方らしいので。
フロベエルの晩年の傑作に、『ブヴァールとペッキュッシェ』があります。この中に。

「ズボンの正面の股上は、両脇のボタンで大きく開かれるようになっていて、裾の方は、海狸の短靴の上でふくれ皺をつくっていた。」

これはブヴァールの着ている服装の説明。
「海狸」とは、ビーヴァーのこと。
また、「両脇で大きく開かれるようになっていて」とは、「ホールフォール」のことかと思われます。
「ホールフォール」whole fall は、昔の洋服職人が「かえる股」と呼んだ形式の前開き。
セイラー・トラウザーズの前開きもまた、「ホールフォール」です。
どなたかホールフォールのトラウザーズを仕立てて頂けませんでしょうか。