ピアノとピー・ジャケット

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ピアノの音色は、聴く人の心を蕩けさせる力を持っていますね。まさに「夢心地」にさせてくれる音でしょう。
でも、イタリア語の「ピアノ」 p i an o には、「静か」の意味もありらしい。誰かが騒いでいるようなとき、「ピアノ、ピアノ!」 といえば、「お静かに!」の意味にもなるんだそうです。
庄野潤三の小説に、『ピアノの音』があります。あくまでも創作ではありますが。でも、熟読すれば、それが庄野潤三の私生活の一部でもあることに、気づくでしょう。もちろんピアノが出てくるから、『ピアノの音』なのですが、「ピアノの音にも似た暮し」をも指しているのかと思われます。『ピアノの音』の中に。

「そのあと、妻は四階のハーディー・エイミスの店へ。顔馴染の店員がいて………………。」

ここから想像すると、庄野潤三の奥方は、ハーディー・エイミスの愛用者だったのかも知れませんが。
ピアノの音といえば、ベートーヴェンの話があります。若き日のベートーヴェンは、むしろピアノ演奏家でありました。ベートーヴェンは主に、「シュトライヒャー」製のピアノを弾いたそうですね。でも、ベートーヴェンの弾き方は、当時の習慣からかけ離れて、「強かった」。そのため、弦が保たない。何度もイギリスから弦を取り寄せたという。
ベートーヴェンが、1798年頃、作曲したのが、『悲愴ソナタ』。ベートーヴェン、二十八歳頃のこと。今なお、『悲愴』と呼ばれるのは、ベートーヴェン手書きの楽譜の右隅に、「パセティック」と書かれてあったから。多くのベートーヴェンの曲の中で、作曲家自身が題をつけたのは、『告別』を別とすれば、この『悲愴』があるだけなのです。
『悲愴』が出てくるミステリに、『眠りなき狙撃者』があります。フランスの、ジャン=パトリック・マンシェットが、1981年に発表した物語。

「誰かが悲愴という名のソナタの最初の一二小節を正確に弾こうとしていた。」

また、『眠りなき狙撃者』には、こんな描写も出てきます。

「ピーコートと黒いセーターとブルージーンズ………………。」

これは物語の主人公で、フランス人の、マルタン・テリエの着こなし。
たぶん、「ピー・ジャケット」p e a j ack et のことなんでしょう。
寒い日には。ピー・ジャケットを着て、ピアノ演奏会に出かけたいものです。

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