エピグラフと燕尾服

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エピグラフは、銘文のことなんだそうですね。
たとえば一冊の本があって、本文がはじまる前の巻頭に、短い古典の言葉を掲げたりするのが、エピグラフ。
これもまったくひとつの例ですが。J・D・サリンジャーが1953年に発表した、『九つの物語』。この扉には。

両手をたたく音をわれわれは知っている。
しかし、片手のたたく音はなにか?

これがエピグラフになっています。よく知られているように、禅の公案ですね。隻手の音声と呼ばれるもの。白隠和尚が門弟に出した言葉だと言われています。
両手を叩くと音がする。では、片手で叩く音はどうなのか。この難問を解く道が禅の修行だというわけでしょう。
作家によって、エピグラフ好きの人と、そうではない人とがいるようです。二十世紀最高の文学者といわれるジェイムズ・ジョイス。ジョイスはエピグラフを多用した作家ではありません。けれどもなにごとにも例外はあって。1916年に発表された『若い芸術家の肖像』には、エピグラフが添えられています。

こうして彼はいまだ知られていない技に心を打込む

これはオウィディウスの、『変形譚』に出てくる言葉。ジョイスは珍しくこの銘文を『若い芸術家の肖像』の巻頭に掲げています。そういえば『若い芸術家の肖像』の中に。

「上着の燕尾を分けながら、あかあかと燃えさかる火に背をむけて立っている。」

これは物語の主人公、スティーヴンのお父さん、サイモンの姿。二十世紀のはじめですから、燕尾服なんですね。一度、燕尾服を着こなしてみたいものですね。

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