ピクウイックとピー・ジャケット

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ピクウイックは、もちろんディケンズの登場人物ですよね。チャールズ・ディケンズは、2000年頃、10ポンド紙幣に描かれていたように、英国の誇る文豪であります。無理矢理、日本に置き換えるなら、夏目漱石でしょうか。
日本で「坊ちゃん」を知らない者がいないように、イギリス人で「ピクウイック」を知らない人はおりません。
というよりも、チャールズ・ディケンズが作家として世に出たきっかけは、「ピクウイック」の成功によってなのです。正しくは『ピクウイック・クラブ』であり、『ピクウイック・ペイパーズ』なのですが。

「企画中の月刊小説を僕ひとりで執筆し、編集してみないかと言って来た。………………報酬がすこぶるいいので、断れそうにない。」

ディケンズは、キャサリンの手紙の中にそんな風に書いています。1836年2月10日付の手紙に。キャサリン・ホガースは、当時、婚約中だった女性。
このようにディケンズに声をかけたのが、「チャップマン&ホール」社。条件は、月に14ポンド。
「月刊小説」とは、その頃には珍しくなかった「分冊式」。毎月の、読み切り小説。『ピクウイック・クラブ』は、1836年4月にはじまり、1837年11月まで連載されて、拍手喝采。
どのくらい拍手喝采であったのか。ある商人が、「ピクウイック・ケイン」を売り出したところ、完売。「ピクウイックさんが持つようなステッキです」と言っただけで、たちまち人気になったという。とにかく町の紳士から、商店の小僧さんに至るまで、『ピクウイック・クラブ』を読んでいないことには、話にならないかったのですから、仕方ありません。
ピクウイックの出てくる小説に、『愛の報い』があります。ウィンダム・ルイスが、1937年に発表した物語。

「ピクウイック氏かペックスニフ氏のような顔から、オランウータのような顔へと変わり………………。」

「ペックスニフ氏」もまた、『ピクウイック・クラブ』の登場人物のひとりなのですが。
『愛の報い』には、またこんな描写も出てきます。

「船乗り用のピージャケットの古着は雇い主が手に入れてきてくれた。これと船乗り用ののシャツとが組み合わされると、注文通りの重い軛みたいな服の感じが出た。」

これは、スタンプという男の、感想。1930年代のピー・ジャケットがいかに肉厚に生地であったかが、窺えるものでしょう。
さて、好みのピー・ジャケットを着て、ディケンズの初版本を探しに行くとしましょうか。

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