オレンジとオーヴァー

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オレンジは、美味しいものですよね。皮を剥いて中身を食べる。口の中に幸せが訪れ、指先にオランジュの薫りが。
「朝は一杯のオレンジ・ジュースからはじまる」。そうおっしゃるお方も、いらっしゃるでしょう。また、オレンジ・ジュースの質は、それを出すホテルの質に比例する。との説もあります。
そしてまた、オレンジ・マーマレードも。黒パンにバターを厚く塗って、さらにオレンジ・マーマレードを。これをひと口頂くのは、禁断の美味であります。

「自家製のマーマレード・ワインです。ですが、お話をおつづけください。」

1960年代に、ジョーン・エイケンが発表した短篇『マーマレードワイン』の一節。
作者、ジョーン・エイケンの弟は、化学者。化学者の弟からマーマレード・ワインの話を聞いて、小説『マーマレードワイン』を書いたんだそうです。
つまり、マーマレード・ワインは、造ろうと思えば造れるらしい。その効果はまことに偉大で………………。もしもご興味おありなら、『マーマレードワイン』をお読みください。
オレンジはまた色の名前でもあります。

「桃色の服着たる十七八の娘の繪日傘の柄に橙色のリボンを飾りたるを小脇にせると………………」。

尾崎紅葉著『金色夜叉』の一節。「橙色」の脇に、「オレンヂ」のルビがふってあります。『金色夜叉』は、明治三十年頃の発表。もしかすると「オレンジ色」の言葉は、明治三十年くらいから使われるようになったのかも知れませんね。
オレンジ色が出てくるミステリに、『ルパンの大冒険』があります。モオリス・ルブランが、1933年に発表した物語。

「オレンジ色と緑の絹のスカーフです。」

これは、エリーズ・マソンのスカーフという設定になっています。また、『ルパンの大冒険』には、こんな描写も。

「青いセーターの上に灰色のオーバーを着ています」

これは、シャサン夫人の様子。ここでの「オーバー」は、オーヴァー・コートのことでしょう。上着の上に重ねるから、「オーヴァー・コート」。オーヴァー・コートを略して、単に「オーヴァー」とも。

「厚い駱駝のオーヴァに身体をフカフカと包んだ男………………」

小林多喜二著『一九二八・三・一五』の一節。小林多喜二は、「オーヴァ」と書いています。
1928年は、昭和三年のことで。その頃すでに、「オーヴァー」の略語は生まれていたものと、思われます。
オーヴァー・コートの、前半分を省略したのが、「コート」であるのは、申すまでもないでしょう。そのどちらも立派な和製英語であります。

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