ブルエとプロテエジェ

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ブルエは、苔桃のことなんだそうです。苔桃をカナダで、「ブルエ」と言って、フランスで「リュス」と呼ぶんだとか。
苔桃は、赤い、小さな果実で、ジャムにすると、すこぶる美味しいんだそうですね。
今はふつうジャムと言いますが。古くは「ジャミ」とも。大正語でしょうか。

「私、トーストをいただくわ、ヂヤミの…………………。」

武田麟太郎が、昭和十年に発表した『一の酉』に、そのように出てきます。
これは女ふたりが風呂上りに、馬道の「支那ソバ屋」に寄る場面。「おしげ」という女の科白。この時代には、まだ「ジャミ」のほうが優勢だったものと思われます。
しかし。明治十年『讀賣新聞』五月二十九日付には。

「ジヤム、砂糖漬製造」

の、記事が出ています。内藤新宿の「勧農局」で、試作。八官町十八番地にあった「長久」でも販売された。そんな記事になって。

「追々お國で珍しいものができるのは結構でござります。」

と、締めくくられているのですが。
えーと。ブルエの話でしたね。ブルエが出てくる小説に、『白き処女地』があります。1914年に、ルイ・エモンが発表した物語。

「ほかの人たちは、自家用のためのブルエをつむ。つまり、仏領カナダの≪お国デザート≫ であるジャムやパイを作るためなのだった。」

この『白き処女地』は、仏領カナダを背景に描かれているのです。ルイ・エモンの代表作が、『白き処女地』。というのも、著者、ルイ・エモンは1913年に交通事故で世を去っているから。まだ三十二歳という若さでありました。
また、『白き処女地』には、こんな描写も。

「裏に兎皮をつけた耳おおいのある黒いラシャ帽をかぶっていた。」

これは、クレオファ・ブザンという少年の帽子。
耳覆いは、イア・フラップ。フランスでは、「プロテエジェ・オレイユ」。
とりあえず帽子は脱いで。美味しい紅茶に、美味しいジャムをいただきたいものですね。

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