酒林とトゥイード

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酒林は、杉玉のことですよね。杉玉は、杉の葉を束ねて球のように仕上げた目印のこと。酒はなにの目印なのか。
新酒ができましたよ、という合図だったんですね。でも、どうして杉の葉なのか。
これは奈良の、「大神」 ( おおみかみ ) 神社と関係があるんだとか。昔から「大神神社」は、酒の神様。そして大神神社の御神木が、杉だったから。

極楽は何処の里と思ひしに、杉葉立てたる又六が門

一休和尚は、そんなふうに詠んでいます。「杉葉立てたる」を今の杉玉と解釈すると、一休和尚の時代から、すでにあった習慣なんでしょう。
杉玉はかならずしも日本だけではなくて。オーストリアでも。新酒ができると、もみの木を束ねて、軒先に吊す習慣が。
オーストリアといえば、ウイーンで。ウイーンにはグリンツイングがあります。グリンツイングには、ホイリゲがあって。ここではワインと郷土料理とが堪能できる場所なんですね。
ホイリゲ Heurige は今では「ワイン酒場」の意味ですよね。でも、もともとは町の名前だったとか。
ホイリゲの町のワイン醸造家が、できたての新酒を提供したのが、はじまりなんだそうです。グリンツイングが出てくるミステリに、『ベルリン・レクイエム』が。フィリップ・カーが、1991年に発表した物語。

「グリンツイングは、葡萄酒造りで有名なんだ、夏の頃になると、みんなここにやってきて、新酒を売る居酒屋に入る。」

これは広告会社の社長、ヘルムート・ケーニヒの科白なんですが。そしてこの話を聞いているのが、ベルンハルト・グンター。グンターは、私立探偵という設定。グンターは、ベルリンからウイーンにやってきた探偵なんですね。時代背景は、1947年ころ。
もっとも著者のフィリップ・カーは、スコットランド、エディンバラの生まれなんですが。『ベルリン・レクイエム』の中に。

緑色のツイードの背広の胸ポケットから葉巻を取り出しながら、こちらに歩いてくる。」

これもまた、ヘルムート・ケーニヒの姿。トゥイードの胸ポケットに、葉巻。粋ですよね。
さて。トゥイードの上着を着て。酒林を探しに行くとしましょうか。

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