すっぽんとスティフ・ブザム

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すっぽんもまた美食のひとつであります。すっぽんはすっぽんと言い切ること。その下に不用意に「ぽん」などをつけてはなりません。
美食といえば、キャヴィア、フォアグラ、トリュフなどがよく知られています。これら皆、西洋のものでして、日本が名乗りをあげることできません。が、すっぽんは別。すっぽんこそ世界に知らしめたい美食でありましょう。
すっぽんのことを通人は、「まる」と言います。たぶんすっぽんの甲羅が丸いからなんでしょう。だからこそ、「すっぽんと月」の形容が活きてくるのでしょうね。
すっぽんが出てくる小説に、『すっぽん、あるいは』があります。大庭みな子が、1995年に発表した物語。

「強いリキュールと混ぜ合わせたすっぽんの生血の紅さから……………」。

これはすっぽんを養殖して一儲けしようという場面。すっぽんの生血には滋養強壮の力があると、信じられていますからね。
すっぽんが出てくる随筆に、『酒』があります。池田 潔が1952年に発表したエッセイ。池田 潔は、下戸。奈良漬で酔うほどに。その池田 潔が酒も飲まないのに、酔ってしなって。いろいろ友だちが心配するうちに、原因判明。すっぽんの汁に、一滴の酒を入れてあったらしい。
池田 潔の随筆には、『イギリスについて』もあって、名品。この中に戦前の英國の話が出てきます。

「左の拳でタクシードの白い胸をこつんと叩き一段聲を張り上げて………………」。

老英國紳士が、酔余の果てに歌を歌う様子。
「タクシードの白い胸」。これはたぶん、スティフ・ブザムのことでしょう。叩けば「こつん」と音がするくらいに、硬く仕上げられていたのでしょうしょうね。

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