スチームとステッキ

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スチームは、蒸気のことですよね。「スチーム・アイロン」というではありませんか。アイロンのどこかのボタンを押すと、蒸気が出てくる仕掛になっています。便利な代物です。皺なんかあっと言う間に消してくれます。
スチーム・アイロンの前の洋服屋は、水刷毛を使ったものです。生地の上に当布をして、その上から水刷毛を。それで炭火アイロンをかけると蒸気が発生したものであります。
スチームが出てくる作品に、『あめりか物語』があります。永井荷風が明治三十六年に発表した名文。

「窓や戸へ帷幕を引き蒸氣の温度で狭い船室の中を暖かにして………」

これは荷風がアメリカに向う船の中でのこと。荷風は「蒸氣」と書いて、「スチーム」のルビを添えています。
スチームが出てくる小説に、『晩春の旅』があります。昭和二十七年に、井伏鱒二が発表した随筆ふうの讀物です。

「關ケ原が近づくと、車内のスチームが熱くなつて窓硝子が曇って来た。」

これは博多に向う急行列車の中での様子として。友達は、飛行機で九州に行くので、博多までは井伏鱒二は一人旅。東京から博多まで二十四時間だったという。
井伏鱒二の『晩春の旅』は、こんなふうにはじまります。

「私は今度の九州旅行に、花梨のステッキを持つて出た。」

この「花梨のステッキ」は、昭和のはじめに、作家の牧野信一から譲り受けたものだとも書いています。当時は文士の間でもずいぶんとステッキを持つことが流行ったんだそうですね。
作家の堀 辰雄は、室生犀星から頂いたスコットランドのトネリコのステッキを愛用。井伏鱒二の『晩春の旅』には、そのように出てきます。
小林秀雄は、滋賀直哉からの薄墨色のステッキを。
永井龍男は光沢のある黒いステッキ。
青柳瑞穂は、スネイク・ウッドのステッキ。
どなたか、スネイク・ウッドのステッキを作って頂けませんでしょうか。

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