パラダイスは、楽園のことですよね。あるいはまた、「エデンの園」のことでしょうか。
paradise
と書いて、「パラダイス」と訓みます。英語のパラダイスはもともと、ペルシア語の「パイリダエーガ」から来ているんだそうですね。それは「庭」の意味であったという。
これが「パラダイス・シューツ」となりますと、「沈香」。あの香木の「沈香」のことです。
アダムとイヴがエデンの園をおわれる時、この「沈香」だけは持ち出して。それで今に、沈香は世に伝えられているんだとか。
「三畳の部屋いっぱい、すばらしいパラダイスです。」
林芙美子の『放浪記』に、そんな一節が出てきます。パラダイスはたぶん部屋の広さとは関係ないのかも知れませんね。
「ハッピー!」と思って暮らせば、やがてそこが楽園になってくれるのでしょう。
その昔、林芙美子と一緒に旅した作家に、柴木好子がいます。昭和二十六年のことなのですが。
この時、みんなで「楽焼き」をして遊んだ。柴木好子が『林さんの思い出』と題する随筆に書いていることなのですが。
林芙美子はその時、一句したためた。
「硯冷へて 銭もなき冬の 日暮れかな」
この句を読んだ柴木好子は、思った。
「あら、ウソばっかり」。
その頃の林芙美子は大忙しで、売れに売れていた時代だったので。
柴木好子の代表作に、『洲崎パラダイス』があるのは、ご存じの通り。昭和二十九年『中央公論』十月号に発表した名作。この題からも窺える通り、当時の洲崎が物語の背景になっています。正しくは「すさき」と訓むんだそうですが。
「特飲街の入口の橋に、遊廓時代の大門の代りのアーチがあって、「洲崎パラダイス」と横に書いたネオンが灯をつけた。」
柴木好子は、『洲崎パラダイス』の中に、そのように書いてあります。この柴木好子の『洲崎パラダイス』を一読して惚れたのが、川島雄三。日活映画で、同名の映画を撮っています。
「作品「洲崎パラダイス」のこの主人公蔦枝と義治が橋の田本の飲み屋「千草」に現れるのも、この時刻であった。」
柴木好子のご主人だった大島 清は「解説」の中に、そのように書いています。
昭和二十八年頃の柴木好子は、文学上の行き詰まりを感じていたらしい。そんな時にふっと訪れたのが、洲崎。そこで、柴木好子は新しいテエマを得たというのですね。
冬ざれの洲崎の濱、ひとりめざめかなしく さぐりもあてして冷たき肌なり。
室生犀星は、『洲崎の海』と題する詩の中に、そのように詠んでいるのですが。
パラダイスが出てくる紀行文に、『カッシーノ!』があります。浅田次郎が、2001年に発表した随筆。浅田次郎のカジノ紀行という内容になっているものです。
この『カッシーノ!』は楽しい本で、カラア写真が多く添えられてもいます。浅田次郎と一緒に旅している気分にもなれるでしょう。
「パラダイス」と、少女は湯をはね上げた。
これは温泉場の「バーデン=バーデン」でのこと。浅田次郎が、「日本にはカジノがない」と説明した時の少女の反応として。
浅田次郎はこのカジノ紀行の旅をモナコからはじめています。たぶん、それは夏のことでもあったのでしょう。カラア写真には、パナマ帽が写っていますから。「オテル・ド・パリ」のティールームでの写真に。一流ホテルには、一流のパナマがふさわしいものです。パナマだけはすぐに見て、極上品であることが分かるものですから。編み目の細かいものほど、上等なのですね。
どなたか最高級のパナマを作って頂けませんでしょうか。