剃刀と開襟

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剃刀は、髭剃りのための道具ですよね。男の顔には髭が生えることになっています。これをそのままにしておくと、「無精髭」に。
そこで、毎朝髭を剃ることになるわけです。剃刀にもいろいろとありまして。最近では、電気剃刀も少なくないようですね。つまり、シェイヴァー。シェイヴァーがお好きなお方もあれば、昔ながらの剃刀がお好きなお方もいらっしゃるでしょう。
剃刀。正しくは、安全剃刀。決して危なくない剃刀なので。
今の安全剃刀は、主に戦後からのものでしょう。戦前には多く、西洋剃刀を用いたものです。西洋剃刀は、片刃の、薄い剃刀。切れ味抜群でありました。革砥があって、時々磨きながら。
ただ、少しでも手元が狂うと、顔に傷が。よく絆創膏を貼ったりしたものです。

志賀直哉が、明治四十三年に発表した短篇に、『剃刀』があります。明治末期の、麻布、六本木が物語の背景になっているのですが。当時、ここに、「辰床」という床屋があって。

「剃刀を使ふことにかけては芳三郎は実に名人だつた。」

志賀直哉はそんなふうに書きはじめています。「辰床」の主が、芳三郎なのですね。また、こうも書いてあります。

「客は芳三郎にあたつてもらふと一日延びが違ふと言つた。」

明治の頃には、毎日のように髭だけを剃りに通う若旦那も少なくなかったらしい。
名人の髭の剃り方は俗に、「掘る」と言った。それでけっして肌を荒らさない。やはり、名人と言う外ありません。
その昔、菊池 寛はこんなことを言ったそうですね。

「世界の文學界に持出して第一級と呼び得るものがある。志賀直哉氏の短篇小説の如きがそれだ。」

志賀直哉の『剃刀』を読みますと、この菊池 寛の言葉に納得させられてしまいます。

サプライズ・エンディングで想う作家に、英国のモオムがいるでしょう。たとえば、モオムが1944年に発表した『剃刀の刃』があるのは、ご存じの通り。
ただし物語の時代背景は戦前に置かれているのですが。

「エリオットはわざわざロンドンへ出掛けて、薄紅がかった灰色の両前のチョッキや、シルクハット、新しいモーニングコートなどを買い入れた。」

そしてエリオットは、そのピンクがかったグレイのウエイストコートに、どのピンがふさわしいかを、物語の主人公に尋ねたりするのですが。

剃刀が出てくる小説に、『乾いた九月』があります。アメリカの作家、フォークナーが1931年に発表した物語。

「床屋は、剃刀を宙に支えたまま、セールスマンの顔をおさえつけた。」

これは理容店でも様子として。また、『乾いた九月』には、こんな描写も出てきます。

「開襟の白地のワイシャツをつけ、頭に中折れ帽をかぶっている。」

これは新しく入って来た客の様子として。
はじめからネクタイを結ばないと、決めてあるなら、開襟も選択の余地ありですよね。
開襟。オープン・カラーのことです。
どなたか完璧な開襟シャツを仕立てて頂けませんでしょうか。

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