プリイツは、襞のことですよね。「プリイツ・スカート」というではありませんか。襞のあるスカートのことを。
pleat と書いて、「プリイツ」と訓みます。もっとも単数なら「プリイト」。複数なら、「プリイツ」になるわけですね。
このプリイツにもふたつの綴りがあります。古い時代には、plait
。戦前まではこちらの方が多く用いられたらしい。今では、pleatが主流になっているようですが。
プリイツの語源は、ラテン語の「プリキトゥス」plicitus だったそうです。「畳む」の意味。生地を畳むと、襞になりますから。
タイト・スカートの後などには、「キック・プリイツ」。歩きやすさのための襞ですからね。
男の上着にも、「アクション・プリイツ」が。肩の後、両側にあしらわれる襞のこと。両腕を動かしやすいための工夫として。
あるいはまた、「インヴァーテッド・プリイツ」。これはトレンチ・コートの後などによく見られる襞のこと。箱襞を逆さまにした形なので、「インヴァーテッド・プリイツ」と呼ばれるわけですね。
プリイツの歴史も、古いものがあります。
ひとつの例ではありますが。古代エジプト時代の「カラシリス」kalasiris
。これは「襞服」とも呼びたい古代衣裳でありました。白く、ごく薄い麻布。男女に関係なく着用された日常着。基本的に、ワンピース形式で、襞を付けながら着るのが、特徴だったのです。
カラシリスはたいていの場合、素肌の上に重ねた衣裳。プリイツを寄せるこちで、透明から半透明に変化する美学でもあったのです。
フランスには、「プリ・スープル」があります。「柔らかい襞」のこと。プリは、「襞」。スープルは、「柔らかい」ですから。つまり、ふくらみのあるプリイツのことなのですね。
あるいは、「プリ・ロン」。丸襞のこと。アイロンで固く押さえてしまわないプリイツのことであります。
英語の方にも、「キルト・プリイツ」があります。「片襞」のこと。スコットランドのキルトに特徴的な襞なので。
プリイツが出てくる小説に、『林檎の木の下で』があります。2006年に、アリス・マンローが発表した物語。アリス・マンローはカナダ生まれの女性作家。ただし、スコットランド系カナダ人だったようですが。
「それに、ロイヤルスチュアートのプリーツスカート。もしかすると、グロリアとスザンナはダリアのことを一家の代表で、一家の誇りと思い、ダリアの服を買うために貯金を出合っていたのかもしれない。」
そのような文章が出てきます。ここでの「ロイヤルスチュアート」は、タータン柄のことを指しているのでしょう。
また、『林檎の木の下で』には、こんな一節も出てきます。
「ウォルターは死ぬまえにスコットランドへの帰省も果たし、格子柄の肩掛けをまとってアザミの花束を手にした写真を撮った。」
アザミが、スコットランドの国花であるのは、言うまでもないでしょう。
また、この文章の「肩掛け」から、私は「プラッド」plaid を想ってしまいました。
昔のスコットランドでのタータンの衣裳は、大きな一枚の布だったのです。その一枚の布で、襞を作りながら、脚衣の部分とし、さらに残り布を上半身にまわして、左胸の前で大きく結んだ。この結んだ部分を「プラッド」と呼んだのです。
今、格子柄のことを「プラッド」と呼ぶことがあります。以上のことからも、もともとはタータンにふさわしい呼び方だったのですね。
どなたかプラッドの生地で上着を仕立てて頂けませんでしょうか。