アコーディオンは、手風琴のことですよね。昔は「手風琴」と言ったんだそうです。手を使って風を送り込む楽器なので、手風琴。
アコーディオンが出てくる映画に、『東京物語』があります。小津安二郎の名作。この映画のなかに、熱海見物に行く場面があって。ここに街頭のアコーディオン演奏が入るんですね。曲は『燦めく星座』だったでしょうか。
映画といえば、『巴里の空の下セーヌは流れる』にも、アコーディオンが。1951年のことです。これをはじめとして、アコーディオンはシャンソンに欠かせない楽器という印象もあるでしょう。
アコーディオンのなによりの特徴は、持ち運びが自由であること。そんなわけで、船上の楽器でもあったらしい。長い航海の間、船員が船でアコーディオンの演奏を愉しんだのでしょう。
アコーディオンが出てくる小説に、『おもかげ』があります。永井荷風が昭和十三年に発表した短篇。
「折から手風琴とギタアとを伴奏にした門附の流行歌が、河岸店の間から聞え出した。」
永井荷風は「手風琴」と書いて、「アコオジヨン」のルビを添えているのですが。
また、ここでの「門附」は、今の流しに似たものだったのでしょう。
この物語の背景は当時の吉原、龍泉寺町になっています。以前、樋口一葉が住んでいた辺りですね。荷風の『おもかげ』は、「豊さん」と「為さん」との二人の会話が中心になっています。「辻自動車」の運転手。今ならタクシーでしょうが。
1931年に日本ではじめてアコーディオンを売り出したのが、「トンボ楽器」。昭和六年のこと。「トンボ楽器」は今も健在で、アコーディオンの外、ハーモニカをも作っているとのことです。
そもそものアコーディオンは、1829年に、オーストリアではじまったと考えられています。シリル・デミアンによって考案。シリル・デミアンは「アコーディオ」の名前で特許を得ています。ただ、そのアコーディオンは右手でボタンを操作する仕組だったそうですが。
1831年に、アコーディオンは巴里に伝えられて。改良されて。つまり、高級材質が用いられて、装飾化。これによって、アコーディオンは上流社会に入っていったんだそうですね。
「アルペン地方のアコーディオンは、音色だけでなく、楽器のデザインにも特徴があります。チロリアンテープの柄が装飾に反映している、比較的四角い感じのボディの楽器」。
三浦みゆき著『まるごとアコーディオンの本』に、そのように説明されています。アルペン・アコーディオンはやや小型で、より繊細な音色を持っているんだそうですが。
アコーディオンが出てくる長篇に、『汝の隣人を愛せ』があります。1941年に、エーリッヒ・レマルクが発表した物語。
「台所の方から、皿のがちゃがちゃいう音や、ラジオのアコーディオンの物悲しい調べが聞こえてきた。」
これは巴里に向かう途中でのスイスでの話として。また、『汝の隣人を愛せ』には、こんな描写も出てきます。
「窓のわきにアルプス服を着たふたりの歌い手が、アルプス特有のヨーデル調で歌っていた。」
ただし、ここでの伴奏は、ツィターになっているのですが。
「アルプス服」は、アルペン・ジャケットのことでしょうか。
どなたかアルペン・ジャケットを仕立てて頂けませんでしょうか。