同行二人とドスキン

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同行二人は、お遍路のことですね。四国、八十八ヶ所霊場詣り。八十八ヶ所を、すべて廻ると、大いなるご利益があると信じられています。
手甲脚絆の白装束。菅笠には墨痕淋漓、「同行二人」と書いてあります。これで、「どうぎょうににん」と訓みます。
一人で歩いても二人の意味。もう一人はもちろん、弘法大師。弘法大師様と一緒に歩いているのですよ、ということなんですね。手甲脚絆は、長旅から身を守るため。そうではありますが、白装束は「死すとも可なり」の覚悟からなんでしょう。
野坂昭如の短篇に、『同行二人』があります。この題のつけ方からも、野坂昭如が少なからずお遍路に関心があったものと思われます。事実、『花のお遍路』でも、八十八ヶ所霊場を描いています。

「手甲脚絆白装束、笈摺りはおり金剛杖にぎりしめ…………」。

野坂昭如は『花のお遍路』を、そのように書きはじめています。野坂昭如の出世作は、『エロ事師たち』。野坂昭如の代表作ともいえるでしょう。昭和三十八年に発表されて、話題となったものです。突然、「野坂文体」を完成させていた点において。
野坂昭如自身は、「野坂文体」は織田作之助をヒントにしてと、語っています。が、ある人は井原西鶴の昭和版とも。さらには、「日本のジェイムズ・ジョイス」と評されたこともあります。『エロ事師たち』の中に。

「ドスキンの上下に、チョッキには時計の金ぐさりぶらさげて悠揚せまらぬ貫禄。」

これは、東山幸楽という名の、弁士の着こなし。
ドスキンは、正しくは「ドゥスキン」 doe skin 。つまり雌鹿の皮に似た光沢がある緻密な生地のこと。
ドゥスキンは必ずしも礼服専用と決まっているわけではありません。ただ、現代感覚では、地厚にすぎると思うむきもあるでしょうが。しかし、より美しいシルエットを表すには、最適の素材でもあるでしょう。
ドゥスキンの美事なスーツを着れば、まさに「同行二人」の気分であります。

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