シロップと縞ズボン

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シロップは、甘い液体のことですよね。たとえば、メープルシロップだとか。
メープルは楓の樹液で。楓の幹に傷をつけておくと。その傷口から涙を流す。この楓の涙をなめてみると、甘い。「甘い涙」というわけでしょうか。メープルシロップはただ甘いだけでなく、亜鉛などのミネラルも含まれているんだそうですね。パンケーキなどにも、よく添えるのはご存じ通り。

「しまは電氣冷蔵庫の氷片を、シロツプに浮かべて、妙子にすすめた。」

川端康成が、昭和三十一年に発表した『女であること』に出てくる一節。「しま」はその家の女中。「妙子」は訪問客。シロップの氷添えですか。甘いでしょうね。
シロップで思い出すものに、桃の缶詰があります。シロップに漬けた桃の缶詰。あれもかなり甘かった記憶があります。
桃、ことに白桃の本場は、岡山。むかし岡山に、松田利七という奇人がいまして。世界一の白桃を創ろうと。松田利七は寝ても醒めても桃、桃、桃。桃のことばかり。どうすれば世界一の桃になるのか。
ある時、ふっと神の声が。「利七よ、カラスミじゃよ。」それで利七は次の日からせっせとカラスミを桃木の根元に。
よく年の白桃はこれまでで、最上の出来であったという。以降、毎年、その中でも最高の白桃は宮中へ納められたという。大正時代の話ではありますが。
カラスミが出てくる小説に、『グッド・バイ』があります。太宰 治が、昭和二十三年に発表した短篇。

「カラスミが実に全く大好物、ウイスキイのさかなに、あれがあると、もう何もいらん。」

これは「田島」という男の呟き。また、『グッド・バイ』には、こんな描写も。

「それよりもずっと若いロイド眼鏡、縞ズボンの好男子は、編集者。」

これは物語のはじめあたり。「若い編集者」は、たぶん黒い上着なんでしょう。
でも、もっと自由に、縞ズボンを穿こうではありませんか。
「甘い、甘い…」なんておっしゃらずに。

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