トルバサととんび

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トルバサは、ブーツのひとつなんだそうですね。手作りのブーツ。全体はトナカイなどの毛皮で、履き口に美しい刺繍をあしらったブーツ。
これはサハリンに住む少数民族の、「ニヴフ」の民族衣装でもあるとのことです。私はサンギの短篇集『サハリン・ニヴフ物語』を読んで、「トルバサ」のことを識ったのですが。
ウラジミール・サンギは、1935年にサハリンに生まれた作家。サハリンの民話などについて多くの著書があります。『サハリン・ニヴフ物語』は、1970年代に書かれたものが中心になっているようです。

「根気よく足踏みして、トナカイ皮のトルバサ(長靴)についた雪をはらい落とす。ニヴフにみんな辛抱強い。」

サンギは『イズギン』という短篇の中に、そのように書いています。
余談ではありますが、ニヴフには、「女尊男卑」の傾向があったそうですが。
ニヴフは、ニヴフの言葉で、「人間」の意味だったという。ただし、異国の人は、「ギリヤーク」の名前で呼んだのだそうです。
ニヴフは、主に狩猟民族。また、漁業民族でも。主食は、「ユーカラ」。ユーカラとは干した魚。
また、得た毛皮などは、物々交換にするとのこと。貨幣経済とは無縁なのでしょうか。
毛皮といえば、冬の間のトルバサは、トナカイの毛皮で。夏になると、トナカイの革で作るんだとのこと。

「肩には、万一にそなえた予備として、半外套なり、アザラシや犬の毛皮のジャケツなりを引っかけている。」

1893年にサハリンを旅したチェホフは、『サハリン島』の中にそのように書いています。ギリヤーク人の服装として。

「こんな晩には人間には話相手がいります。」こう言って男が立って来た。見るとギリヤーク族が履くような海豹の皮で作った不思議な長靴をはいている。

牧 逸馬が、昭和十年に発表した『七時〇三分』に、そのような一節が出てきます!
牧 逸馬は、「長靴」と書いて「トルボス」のルビを振っているのですが。たぶんこれは、トルバサのことかと思われます。
牧 逸馬の『七時〇三分』を読んでいますと、こんな描写も出てきます。

「黒いトンビのような物を着た、みすぼらしい年寄だ。」

ここでの「トンビ」はとんびのことです。漢字でか書くと、「鳶」となります。それを羽織った姿が鳶を想わせるので、とんび。つまりはインバネスのことなのです。

「彼はフロックの上へ、とんびのような外套をぶわぶわに着ていた。」

夏目漱石の『硝子戸の中』に、そのような文章が出てきます。これは漱石の友人、「O」という設定になっているのですが。
Oは、とんびのポケットから栗饅頭を取り出して、漱石を驚かせる場面なのです!このことによってもとんびにはポケットが備えられていたことが分るでしょう。
どなたか戦前のとんびを復活させて頂けませんでしょうか。

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