甘鯛と編上靴

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甘鯛は、魚の名前ですよね。甘鯛の味噌漬けは美味しいものであります。
甘鯛よりも「ぐじ」の方に親しみを感じる人もいるでしょう。甘鯛は標準語。ぐじは、関西語。あるいはまた、駿河の辺りでは、「興津鯛」とも。甘鯛、ぐじ、興津鯛。結局は同じものなのですね。

「江都では盛んに賞でており、甘鯛といい、興津鯛ともいう。駿州の奥(興)津に多く産するからである。」

1697年に出た『本朝食鑑』んは、そのように出ています。また『本朝食鑑』には、関西では「久志鯛」とも呼ぶ。そうも書いているのですが。甘鯛の歴史の古いことがお分りでしょう。

「駿海産の甘鯛を生干にしたるを、おきつ鯛と称して、名品の一なり。」

松浦静山著『甲子夜話』にも、そのように出ています。この松浦静山の『甲子夜話』に従いますと。昔、駿河城に、「おきつ」という奥女中がいて。
ある時、このおきつが、一夜干しの甘鯛を殿に献上したところ、お気に召して。ここから「おきつ鯛」の名前がはじまったと、書いています。

甘鯛が出ている小説に、『文明病患者』があります。
1923年に、武林無想庵が発表した短篇。

「シメ鯖の二杯酢、アマ鯛のテリ焼、イカのテンプラ」

これが『文明病患者』の第一行なのです。
武林無想庵は、明治十三年の生まれ。大正九年には、巴里に遊学に出ているお方なのです。1920年代の巴里にはお詳しいお方でしょう。
武林無想庵の『文明病患者』を読んでおりますと、こんな文章も出てきます。

「巴里製の背廣を着て、プランタンの出来合外套をひツかけ、サン・ミッシェルの靴屋で買つた、これも出来合ひ九十何フランといふ編上げを穿いて」

これは大阪の街を歩いている武林無想庵の姿として。
「編上げ」は、編上靴のことかと思われます。もちろん「あみあげぐつ」と訓むのですが。
英語の「レイスドアップ・シューズ」でしょうか。足首まで、紐結びになった靴のことです。
どなたか今様の編上靴を作って頂けませんでしょうか。

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