麦と麦藁帽

麦は、五穀のひとつですよね。「五穀豊穣」というではありませんか。

麦はまた「ばく」とも訓むこと、ご存じの通り。「麦桿」の言葉があるように。

米、麦、キビ、アワ、豆。この五つを含めて、五穀。

ひと口に麦と申しましても。

小麦、大麦、ライ麦、燕麦などの種類があります。

燕麦が、オート麦であるのは、もちろんのこと。

オートミールは、オート麦を原料にしているわけですね。

大麦は、小麦よりもはやく、日本に伝えられたという。

弥生時代に。中国から朝鮮半島を経て。

大麦は小麦よりもさらに育てやすい植物なんだそうです。

大麦がないことには、ビールを造ることもできませんからね。

それから、麦茶も。麦茶のもとは大麦。

群馬県、館林の名物に「麦落雁」があります。大麦を原料に作った落雁なので、「麦落雁」。

江戸中期、「三桝屋総本店」の初代、丸山与平衛が考案したという。

館林藩の秋元家もこの「麦落雁」がお気に入りで。徳川将軍にも献上したとのことです。

庶民的なものとしては、麦焦がし。大麦を煎って仕上げるので、「麦焦がし」。

麦焦がしは主に関東での呼び方。関西では同じものを、「はったい粉」と言います。

江戸時代には、「麦焦がし売り」あったとのことですね。中でも、下谷池ノ端の「酒袋加平衛」の麦焦がしに人気があったとのこと。

麦にはヴィタミンがたくさんあって、今ふたたび見直されているのは、良いことですね。

麦焦がしが出てくる小説に、『道草』があります。大正四年に、夏目漱石が発表した物語。

「多少誇張して云へば、籠に入れた麦焦しを背中に背負つて近在から出て来る御婆さんであつた。」

これは「御常」という女性への形容として。

夏目漱石も麦焦がしを食べたひとりなのでしょうか。

「だつて苦沙弥君は立派な麦藁の奴を持つてるぢやありませんか。」

夏目漱石の『吾輩は猫である』に、そんな会話が出てきます。

これは「迷亭」が買ったばかりのパナマ帽を自慢するためにやってきた場面として。

ここでの「麦藁」が麦藁帽のことであるのは、言うまでもないでしょう。

麦には、穂があります。ふつうその実を食べて、穂は捨てる。でも、その穂を乾かすと、麦藁になってくれるのです。

どなたか目の細かい麦藁帽を編んで頂けませんでしょうか。