喫茶店とランバー・ジャケット

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喫茶店は今や懐かしい場所になりつつありますよね。懐かしいということは、稀少品でもあります。古時計がボーンボーンと鳴るような店は、探してでも行きたくなってしまいます。
戦前には喫茶店は珍しくなかった。でも戦争中は、珈琲豆が少なくなっていた。輸入品ですからね。
昭和十六年ころの喫茶店の話が、『珈琲挽き』に出ています。著者は、小沼 丹。
そのころ、高崎に。不思議な喫茶店があって、珈琲を飲ませるという噂。この噂を耳にした小沼 丹、友だちとふたりで、高崎に。高崎を探して、探して、やっと喫茶店を。
その喫茶店には白い暖簾がかかっていて。ちょっとミルクホールのような感じだったという。じい様とばあ様のふたりでやっている。メニューに、「純毛珈琲」とある。訊くと、混じりっけのない珈琲豆で淹れるので、いちばんの上等品。その時代には、「純毛」というのが流行ったものですが。
その喫茶店では、ばあ様が珈琲挽きで豆を挽き、じい様がその豆を使って、珈琲を淹れてくれたそうです。
ここから、珈琲挽きの話になって。小沼 丹自身、珈琲挽きを使って、豆を挽いたという。それは四角い箱型で、横に把手がついていて、これを回して、粉にする。友人からもらった珈琲。友人はその昔、パリの蚤の市で買ったものらしい。珈琲挽きをくれる友だちは、貴重品ですよね。珈琲挽きを使うのは、精神安定にもなりますし。珈琲挽きが出てくる小説に、『覗く人』が。アラン・ロブ=グリエが、1955年に発表した物語。

「彼女は彼がうしろを見ているあいだ、コーヒーを挽きながら、こっそり観察しつづけていたのだ。」

「彼女」は、店の主人。」は、物語の主人公、マチアス。マチアスは何を着ているのか。

「マチアスはランバージャケットのポケットに紐の束をおしこんだ。」

これは「羊の毛皮の裏付き上着」と、説明されています。ランバー・ジャケットは、森に似合う防寒着ですよね。
さて、ランバー・ジャケットを着て。懐かしい喫茶店を探しに行くとしましょうか。

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