フランスとフロック

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フランス語は美しい言葉ですよね。フランス語を滑らかに操っている女の人は、もうただそれだけで、光輝いて見えます。
なにを隠そう、知っているフランス語はたったひとつだけ。「パソワール・ア・テ」であります。「茶漉し」のこと。
昔むかし、パリの一流ホテルに泊まった時の朝、紅茶をお願いした。だいたいパリの宿で紅茶を頼むところからして、野暮天でありますが。野暮天が紅茶を頼むと、ポットが来た。繰り返しますが、聞けば誰もが知っているホテル。ポットだけで、茶漉しがない。それで、茶漉しが欲しいのですが、分からない。そしてやっと教えてもらったのが、「パソワール・ア・テ」
永井荷風は明治三十六年に、まずアメリカに渡っています。永井荷風の本心はフランス文学にあって。でも、お父さんの手前、経済の勉強というふれこみ。荷風はニューヨークでフランス語の先生に個人教授を受けています。その話は、『あの人達』に詳しく書かれています。
フランス語の先生は、ベルナールというフランス人。かなりのご高齢で、「コンプル・ネエ?」というのが、先生の口癖。なにかひと言言うと、「わかりましたか?」問う。
ベルナール先生の行きつけの店は、「カフェ・マルタン」。ここではフランスの音楽と、フランスの食事を出したから。そんなこともあって、荷風もよく「カフェ・マルタン」に行ったそうです。時折は、偶然に、ベルナール先生にも「カフェ・マルタン」で会ったりも。

「例の古ぼけたフロックコートを着て、高帽子を膝の上に載せ、細い杖の銀の柄の上に……………」。

「高帽子」には、「シルクハット」のルビがふってあります。なにも古ぼけていなくてもいいのですが、一度はフロック・コートを着てみたいものですね。

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