霧と帽子

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霧と題につく歌、多いですよね。たとえば、『霧の摩周湖』だとか。『霧の中の少女』だとか。まあ、幻想的なんでしょうね。
幻想的な霧もあれば、濃霧もあって。濃霧を表現するのに、「ピースーパー」 pea souper 。「えんどう豆のスープみたい」と、形容するんだそうですね。目の前がえんどう豆のスープでいっぱいになったような、霧。
霧からはじまるミステリに、『悪魔と警視庁』があります。E・C・R・ラロックが、1938年に発表した物語。

「ロンドンの霧は色と味わいの点で、かつての“エンドウ豆のスープ” らしさをなくしたとはいえ…………」。

これは、マクドナルド首席警部の科白。ということは、1920年代のロンドンの霧は、ほとんどポタージュだったのでしょうか。
それはともかく、事件の鍵を解くのが、舞台衣裳メフィストフェレスの、衣裳。そこで、専門家が呼ばれて、鑑定を。

「今世紀初頭に織られたリヨンシルク、極上の布地だ。 ( 中略 ) こんな縫い方ができるのは戦前のフランスのお針子だけです。」

これは、ロンドンの貸衣裳業者、ルイ・ド・ラルジュの説明なんですね。ここでの「戦前」は、第一次大戦のこと。1910年代の巴里には優れた技術があったものと思われます。また、こんな描写も。

「黒のホンブルグには“ R・H” とイニシャルがある。緑のポークパイハットには名前がない。グレーのトリルビー帽 ー マクドナルドが根気よく尾行した男がかぶっていたもの ー は、鬢革に “ St・J・ヴァーニア ” とあった。」

帽子への名前の入れ方にも、いろいろとあるんですね。「ポークパイ・ハット」は、第二次大戦後のアメリカで、大流行となった帽子。もっとも1920年代のイギリスにも、「ポークパイ・ハット」の呼び方はあったのですが。
ポークパイ・ハットは時に、「テレスコープ」と呼ばれることも。もちろん、望遠鏡のレンズの形に似ていたからです。

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