アロゼとアンクリュール・エン・ロンド

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アロゼというフランス語があるんだそうですね。 arr os er と書いて、「アロゼ」と訓むらしい。
この「アロゼ」には、「垂らす」の意味も。たとえば珈琲を飲む時、少し牛乳を加える。こんな時にも「アロゼ」を使えるとのことです。
うんと熱い、うんと濃い珈琲に、牛乳をアロゼではなく、たっぷり入れて飲むのが、好き。まあ、結局のところカフェ・オ・レになってしまうのですが。
もちろん、その一方で、ブラック・コーヒーがお好きなお方も。大正九年頃に、芥川龍之介が書いた文章に、『銀座の或る珈琲店』があります。この中に。

「話の腰を折られた僕は、不承不承に珈琲を飲んで、又以前のやうに漫然と………………」。

と、書いています。ここから想像するに、芥川龍之介はブラック・コーヒーがお好きだったのではないでしょうか。
そうかと思えば、やはり作家の中里恒子はいつも「アロゼ」したようですね。

「コーヒーや紅茶のなかに、三匙ぐらいウィスキイを入れるのは大好きで、日常、こんな程度に洋酒を用いている。」

中里恒子の随筆、『私とお酒』にそのように書いています。では、そのウイスキイは何だったのか。いつも「バランタイン」を用意していたとのことです。
いったい、どんな時にバランタインを「アロゼ」したのか。朝、オムレツを食べる時に。オムレツを食べるとき、ウイスキイ・コーヒーを添えた。
ただし、そのオムレツは、自宅の庭で飼っている鶏の卵で作ったそうですから、羨ましい限りであります。
アロゼが出てくるミステリに、『モンマルトルのメグレ』があります。ジョルジュ・シムノンが、1950年に発表した物語。

「彼女はラム酒をダブルで入れたカフェ・アロゼを二杯も飲んだ。」

珈琲にラム。いいですねえ。飲んでみたい。また、『モンマルトルのメグレ』には、こんな描写も。

「奥のほうで、白い丸首セーター姿のフレッドが、ふとい鼈甲縁のめがねをかけて、夕刊を読みふけっていた。」

フレッド・アルフォンシは、キャバレエ「ピクラック」の主人という設定。むろん、メグレが「ピクラック」に入っていった時の様子なんですね。
「丸首」は、フランスでは、「アンクリュール・エン・ロンド」。私たちのいうクルー・ネックのことです。
なにか好みの丸首スェーターで、カフェ・アロゼを飲みに行くとしましょうか。

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