パスポートとハンカチ

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パスポートは、旅券のことですよね。海外旅行に旅行は欠かせません。
パスポートをそのまま日本語にいたしますと、「港通行券」でしょうか。
昔の海外旅行は船で行くことが多かったからでしょう。それで今も「エアポート」、「空港」の言葉が用いられるのでしょう。
「旅行券」の言葉が出てくる小説に、『雁』があります。森 鷗外が大正二年に発表した物語。

「………もう外務省から旅行券を受け取り、大学へ退学届を出してしまつた。」

これは友人の「岡田」についての話。ドイツに留学することになったので。
この後すぐに二人は、「蓮玉庵」に蕎麦を食べに行くのですが。
それはともかく明治末期には「旅行券」と呼ばれていたのでしょうか。

「海外旅行券を政府より乞ひ受くるの手續如何にせは宜しからん」。

明治二十三年に出た『浮城物語』には、そのように書いてあります。矢野龍渓著の本です。
矢野龍渓は、「旅行券」と書いて、「たびてがた」のルビを振っているのですが。
もちろんこの時代には、船での洋行。では、本船まではどうやって行くのか。

「我か端艇は間もなく此の汽船に乗着け……………。」

矢野龍渓は『浮城物語』にそのように記しています。また、「端艇」と書いて、「バッテーラ」のルビを添えているのです。
鮨の「バッテラ」がこの「端艇」、バッテーラから来ているのは、よく知られているところでしょう。
今のバッテラは、明治二十七年頃、大阪ではじまったんだとか。大阪、「順慶町」の「すし吉」の職人が考案したとのことです。
はじめはコノシロで、コノシロが値上がりしたので、のちに鯖を使うようになったんだとも。
えーと、パスポートの話でしたね。パスポートが出てくるミステリに、『騙し屋』があります。1991年に、英国の作家、フレデリック・フォーサイスが発表した物語。

「あとで回収されたハンス・グラウバー名義のパスポートがのっていた。」

また、『騙し屋』には、こんな描写も出てきます。

「………この男はなんでいつもハンカチを左袖に忍ばせているのかと不思議でならなかった。」

これは、サミュエル・マクレディが、ティモシー・エドワーズの様子を眺めての話。
ティモシー・エドワーズは、ハンカチを上着の左袖にしまっておく癖があったので。
これはエドワーズがもと軍人だった証拠。その頃のイギリス人将校は、たいていハンカチを左袖に入れておいた。つまり、トラウザーズの脇ポケットに入れることがなかったので。要するに、畳んだハンカチも入れにくいほど、細身のトラウザーズだったので。フレデリック・フォーサイスは、『騙し屋』の中で、そのように説明しています。
まあ、私たちは軍人でも将校でもないのですから、上着の胸ポケットに入れておくべきでしょうが。
どなたかハンカチも入れられなくらいのスリムなトラウザーズを仕立てて頂けませんでしょうか。

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