ステーキとスウェード

ステーキは、ビーフ・ステーキのことですよね。牛肉を焼いて食べるものですから、ビーフ・ステーキ。
ビーフ・ステーキを短くして、ビフテキ。ビフテキをもっと短くして、テキ。「テキにカツ」なんてシャレもありますよね。
昔、ロンドンに「ビーフステーキ・クラブ」というのが、あったそうですね。1709年のはじまりというから、古い。これは演劇関係者の多く集うクラブだったらしい。
今もロンドンに「ビーフステーキ・クラブ」はありますが、これは1876年のはじまり。旧「ビーフステーキ・クラブ」とは、別物なんだとか。
このふたつの「ビーフステーキ・クラブ」とは、別に、「サブライム・ソサエティ・オブ・ステーキ」という名前のクラブもあったとのこと。1735年の開業で、1805年まで続いたらしいのですが。
こうしてみると、英国紳士はビーフステーキがお好きなのでしょうか。それはともかく最初の「ビーフステーキ・クラブ」の看板は、焼網だったという。
十八世紀のビーフステーキは、網で焼いていたのかも知れませんね。

「君ビステキの生焼は消化にいゝつて云ふぜ。これはどうかな」と中野君はナイフを」

夏目漱石の小説『野分』に、そのような一節が出てきます。
夏目漱石は、「ビステキ」と書いているのですが。漱石は『日記』の中にも「ビステキ」と書いてあります。
明治の頃には、「ビステキ」が一般的だったのでしょうか。それとも「ビステキ」は、「漱石語」だったのでしょうか。
もっとも漱石がロンドンから出した手紙には、「ビフテキ」と書いているのですが。漱石の「ビフテキ」、これはちょっとした謎であります。
漱石はビフテキにはあまり良い思い出がなかったらしい。学生時代、学校の食堂で、雪駄の底のように堅いビフテキを食べた経験があったので。

ステーキが出てくるミステリに、『白夜の国から来たスパイ』があります。スウェーデンの作家、ヤン・ギルーが、1994年に発表した物語。

「それから三人は正装して一緒に食卓を囲んだ。ステーキ、キャビア、卵、パンに紅茶の後にウオッカを飲んだ。」

また『白夜の国から来たスパイ』には、こんな描写も出てきます。

「カールはベージュ色のスウェードの上着を着て、濃い茶色のマンチェスターズボンをはいていた。世界のどこへ行くにも便利な服装である。」

「スウェード」suede は、山羊革などの裏を細かく毳立てた上品な革のこと。もともとは、スウェーデンの手袋用の革だったとの説があります。
どなたかスウェードの上着を仕立てて頂けませんでしょうか。