ジャンとジュストコール

ジャンは、人の名前にもありますよね。
Jean と書いて「ジャン」と訓みます。どうもフランス人の男の子の名前に多い印象があるのですが。
英語なら「ジョン」にも近いのでしょうか。
ジャン・コクトオだとか。ジャン・ジュネだとか。フランスの作家の名前にも「ジャン」は少なくありませんね。
ジャン・グランベエールは以前、巴里の名店「アルニス」ARNYS の代表者だったお方。
ジャン・グランベエールのお兄さんに、モオリスがいまして。このお二人が「アルニス」の経営者だったのです。
店としての「アルニス」は今もあります。が、代が代っているようです。
1980年代までの「アルニス」は光輝いていました。「アルニス」の佳さを識る者ほど、足がすくんでしまう名店でありました。
男の服に、ヴィオレやロオズ、あるいはベエルの魅力を持ち込んだのは、1960年代の「アルニス」だったのではないでしょうか。
とにかく、全盛期のイヴ・サンローランが顧客だったのですから。
フランスの作家に、ジャン・フェクサスがいます。1996年に『でぶ大全』の本も出している人物。
これは「ロミ」との共著になっているのですが。私はこのジャン・フェクサスのことを、ロミ著『突飛なるものの歴史』で識ったのですが。
この『突飛なるものの歴史』は1964年に巴里で出版されています。
ロミは、筆名。本名は、ロベール・ミゲレ。ロベール・ミゲレは1905年にフランスのリールに生まれています。
ロミは1950年に、『パリのカフェ・コンセール小史』を出しているとのこと。これは999部の限定出版だったという。
ミロとジャンとの共著『でぶ大全』は、1993年の刊行。これがミロの遺作。ミロは1995年、九十歳で世を去っているので。
その間に、ざっと二十六冊の著書を遺しています。その多くは「突飛なるもの」で占められているのですが。
1953年刊の『自殺のテクニック』だとか。
このミロの『自殺のテクニック』を愛読した日本人作家に、澁澤龍彦がいます。

「ロミというひとの書いた『自殺』という本を読んでいたら、何だか妙におかしい記事にぶつかったので、次に紹介します。」

澁澤龍彦は1967年に発表した『一角獣のメロディー』と題する随筆に、そのように書いてあります。
ミロはたしかに、「何だか妙におかしい話」ばかりを書いた作家。そうも言えるでしょう。
つまりは、澁澤龍彦好みの作家でもあったに違いありません。
ミロは奇妙な作家でありました。ひと口に言って、奇人。奇人が本を書いたら奇書になるのも、当然のことかと思われます。
ロミは作家であっただけでなく、「ロミ」という名前の骨董屋を開いていたことも。巴里のセエヌ通り十五番地で。
あるいはまた、ユニヴェルシテ通り四番地に、「サン・ティヴ」という居酒屋を開いていたこともあるらしい。
この時代のミロは古い時代のポスターを集めるのが、趣味で。その結果、二万数千枚のポスターを収集したそうですね。
また、絵を描くのも得意で。自分の絵に、架空のサインを入れて、観光客に売ったとも伝えられています。「将来有望な新人作家」だと言って。
このミロの『突飛なるものの歴史』を読んでおりますと。

「ジュストコールやフロックコートも唯々諾々と着用してきたし、兎や山羊の毛皮でできた高帽やシルクハットもかぶり、社会のしきたりを尊重して首のまわりに円型の襞襟や替えハードカラーをつけもした。」

「ジュストコール」justaucorps は、十七世紀の男子の服装。「ジュストコール」、その意味は「身体にフィットした」だったのです。
着丈の短い、細い上着が、ジュストコール。
どなたか現代版のジュストコールを仕立てて頂けませんでしょうか。