ソクラテスとソックス

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ソクラテスは、古代ギリシアの哲学者ですよね。「ソークラテース」と綴ることもあるようですが。
ソクラテスと同じように有名なのが、クサンティッペ。ソクラテスの奥さんであります。なぜか、クサンティッペは悪妻ということになっているらしい。
でも、クサンティッペは少なくとも裁縫が上手だったそうですね。そんなこともあって、ふだんからソクラテスが着ている服は、ちゃんとしていたようです。もしも綻びがあったなら、クサンティッペが繕っていたから。
ソクラテスの弟子に、「アンティステネス」という青年がいたんだそうです。このアンティステネスは、裕福な家の息子であったという。アンティステネスはなんとかしてソクラテスに認めてもらいたいと常々思っていて。
ある時、アンティステネスは「そうだ!」というので、わざと服を破って、穴を。でも、
ソクラテスはなかなかアンティステネスの服の破れに気づいてくれなくて。
ある日、無理矢理、ソクラテスの前で屈んで、綻びを見せた。その時のソクラテスのひと言。

「君の服の穴から見えるもの、それは君の虚栄心だ。」

ソクラテスはとうからそのことが分かっていたのでしょう。
ソクラテスの時代に、「オプソファゴス」 ops oph ag os という言葉があったらしい。もともとは、「肴食い」の意味。そしてまた、「美食家」を指す言葉でもあったようです。
ある宴の席で、弟子のひとりがソクラテスに訊いた。「少しのパンにたくさんの肴を添えて食べる人は何と呼ぶべきですか?」するとソクラテスは答えた。

「それもまた、オプソファゴスと呼んで異存がないと思う。」

クセノフォン著『ソクラテスの思い出』に出ている話なのですが。
ここから想像するに、古代ギリシアにも、今のオープン・サンドウィッチに似た食べ方があったのかも知れませんね。
ソクラテスの時代の食事も、今日の私たちと似ているところがあります。たとえば、一日、
三食だったという。
朝、昼、晩。それぞれ、「アクラティスマ」、「アリストン」、「ディプノン」と呼ばれたそうですが。
ソクラテスの時代の愉しみのひとつは、演劇。芝居。なにしろ映画のない時代でしたから。
古代ギリシアの悲劇俳優が履いたのが、「コトルノス」k oth orn os 。このコトルノスは、現在のセミ・ブーツに似たものでありました。
幕が開いて、役者が「コトルノス」を履いていれば、「ああ、悲劇だな」と予想がついたわけです。
一方、古代ロオマの喜劇役者が履いたのが、「ソックス」 s occ us 。底の薄い、軽い靴のこと。私たちの室内履きに似た靴でありました。
この古代ロオマの喜劇役者の「ソックス」こそ、今のソックスの起源なのですね。

「ソックスを入れよ!」は、「静かにしなさい」の意味。プット・ア・ソックス・イン・イット。
これは昔の大きなラッパ型蓄音器の時代、音が大きすぎると、靴下をラッパに詰めて低くした。その名残りから生まれた言い方なんだそうですね。

「………………本當に好い奴なれば、今度僕の沓したを編みてたまはる時彼にも何か製らへて給はれ………………。」

明治二十六年に、樋口一葉が発表した『暁月夜』に、そのような一節が出てきます。「沓した」は、明治中期にも用いられていたことが窺えるでしょう。
多くは家庭内で編んだものなのでしょう。

「靴下止めの所に、いつも銀の小鈴を結へつけて、歩く度にそれがカラカラと鳴るの。」

昭和二年に、池谷信三郎が書いた小説『橋』に、そのような会話が出てきます。
「銀の小鈴」はさておき。ソックスの場合にはなるべく靴下留めを使いたいものです。
どなたかソックス・サスペンダーの似合う靴下を作って頂けませんでしょうか。

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