ダイヤは、ダイヤモンドのことですよね。あえて日本語で申しますと、「金剛石」でしょうか。
明治の頃には金剛石とも呼んだそうですね。
ダイヤモンドは人の心を蕩かせるところがあります。
「ダイヤモンドに目が眩んで」。そんな言い方がありますように。
ダイヤモンドは人の名前にもありますね。たとえば、「ダイヤモンド・ジム」だとか。ダイヤモンド・ジムの本名は、トーマス・ピット。十七世紀イギリスの商人。有名なピット・ダイヤモンドの持ち主だったので、通称「ダイヤモンド・ピット」。
あるいはまた、「ダイヤモンド・ジム」。本名はジェイムズ・ブキャナン・ブラディ。十九世紀、アメリカの投資家。もともとはホテルのボーイで、その後、投機で大儲け。そのために、ダイヤモンドを買い漁った人物。服装はもとより、乗る馬車にまでダイヤモンドを飾り立てたと伝えられています。
それで人呼んで「ダイヤモンド・ジム」になったという。
ダイヤモンドの用語のひとつに、「ファースト・ウォーター」があるんだそうです。これは「最高級」の意味になるんだとか。「美しい水の輝き」。そんな意味なのでしょうか。
ダイヤモンドが出てくる小説に、『月長石』があります。1868年に、英国の作家、ウィルキー・コリンズが発表した物語。原題は、『ザ・ムーンストーン』になっています。
『月長石』は、あるダイヤモンドが盗難に遇う内容が中心になった物語。
「なんというすばらしいダイヤモンドだ! ほとんど千鳥の卵ほどもあるダイヤモンド!
その深い、黄色い輝きのなかへ、目が引きこまれ、ほかのものは見えなくなる。」
『月長石』には、そんな一節が出てきます。ここでのムーンストーンとは、イエロー・ダイヤモンドだったわけですね。
余談ではありますが。ウィルキー・コリンズの『月長石』は、英国でのミステリの草分けだと考えられています。長篇。
現在、英国王室に保管されているダイヤモンドに、「コ・イ・ヌール」があるのは、ご存じの通り。
コ・イ・ヌールはたぶん現在もっとも有名なダイヤモンドでしょう。
コ・イ・ヌール。Koh I Noor はもともと「光の山」の意味だったそうですが。
コ・イ・ヌールの歴史は中世に遡るとのことですから、古い。
コ・イ・ヌールに長い歴史があるのも当然でしょう。
コ・イ・ヌールがインドからイギリスに伝えられたのは、1851年のこと。
この年に開かれた「大英博覧会」に展示されています。
1851年5月1日が開会。英国の人たちがはじめてコ・イ・ヌールを見たのは、この日だったのです。
それ以来、コ・イ・ヌールは、英国国王の冠の正面に鎮座して、今日に至っているわけです。現在は「ロンドン搭」の保管になっています。
コ・イ・ヌールは1850年、英国軍艦「メディア号」に乗せられて、厳重に英国に運ばれたとのこと。極秘のうちに。
英国のプリマス港に着いたのは、1850年4月6日のことだったそうです。
ダイヤモンドが出てくる小説に、『壁抜け男』があります。1943年に、フランスの作家、マルセル・エイメが発表した短篇。この中に。
「同じ週のうちに、ブルディがらの有名なダイヤモンドが盗まれ、中央銀行が襲われたとなると、民衆の狂乱は頂点に達した。」
これは二つとも、物語の主人公、「デュチユール」の仕業なのですが。
また、『壁抜け男』にはこんな一節も出てきます。
「大きな碁盤縞の上衣とゴルフ用のズボンとを身につけて、彼の変装は完了した。」
ここでの「彼」が、デュチユールであるのは、いうまでもありません。
「碁盤縞」。フランス語なら、「ダミエ」damier でしょうか。
どなたかダミエの上着を仕立てて頂けませんでしょうか。