デルフトとティブ

デルフトは、オランダの地名ですよね。
「デルフト焼」は有名でしょう。デルフト焼の歴史は十六世紀に遡るんだそうですが。
精緻な文様を、独特の深いブルウで描いた陶器。この色のことを「デルフト・ブルウ」と呼ぶんだとか。
デルフトで、十七世紀の画家といえば、フェルメールでしょうか。
フェルメールは1632年10月31日頃、デルフトに生まれています。
本名は、ヤン・ファン・デル・メール・ファン・デルフト。
1675年12月15日頃、四十三歳くらいで、世を去っているとのことです。
フェルメールの絵が謎めいているように、その人生もまた、定かではありません。今から四百年ほど前の話ですから、当然であるのかも知れませんが。
フェルメールが1675年に描いたとされる『ヴァージナルの前に座る女』があるのは、ご存じの通り。現在はロンドンの「ナショナル・ギャラリー」所蔵となっている名画。
『ヴァージナルの前に座る女』。私たちはふつう画集などで観ることが多い。でも、実際の絵は想像以上に小さくて。51、5×45、6センチの大きさ。
この『ヴァージナルの前に座る女』は、2004年7月7日に、サザビーの競売に出て。
32億6千万円で、落札。面積と値段だけで申しますと。銀座の土地も真っ青になるに違いありませんね。
『ヴァージナルの前に座る女』は長い間、真贋をめぐっての論争がありました。
新しい研究の結果、本物と判定。その理由のひとつに、壁の染みがあったのです。そこには当時のデルフト・ブルウが用いられていて。
フェルメールには当然のように、後援者がいた。その名前は、富豪のファン・ライフェン。ファン・ライフェンはまた、フェルメールの絵の収集家でもあったという。
1696年に、フェルメールの絵が売りに出されたことがあります。フェルメールの没後、二十年ほどのこと。
ざっと四十点ほどの絵画が。その中のひとつに、
『牛乳を注ぐ女中』が。これには175ギルダーの値がついています。
『金貨を売る若い女』が、155ギルダー。その他はすべて100ギルダー以下で買えたとのこと。
フェルメールが出てくる小説に、『失われた時を求めて』があります。もちろん、マルセル・プルーストの名作。

「スワンは誘いを断る口実に、やりかけの仕事があると、フェルメール・ファン・デルフトにかんする研究 ー
といっても実際には何年も前から打ち捨てたままになっていた ー を持ち出した。」

また、『失われた時を求めて』にはこんな描写も出てきます。

「たいていは「筒」と呼ばれるグレイのシルクハットをかぶった私の知らない男で、」

ここでの「筒」は、原文では「ティブ」tube になっています。
ティブは英語のチューブに相当するフランス語。
十九世紀末の巴里でのスラングで、シルク・ハットのことを「ティブ」と言ったらしい。
どなたかグレイのティブを作って頂けませんでしょうか。