トーストとトゥッタ

トーストは、食パンのことですよね。
朝は食パンと決めていらっしゃる人も少なくないでしょう。
食パンが焼ける時の匂いは、誘惑的であります。たちまちにして、食欲が刺激されて。
toast と書いて「トースト」と訓みます。
「トースト」の英語は、1398年頃から用いられているとのことです。
トーストにはもうひとつの意味があって、「乾杯」。
お互いに酒を汲みかわす時、「トースト! 」。
でも、トーストと乾杯、いったい何の関係があるのか。
中世の英国ではビールを飲むとき、焼いたトースト片を入れることあった。それで、乾杯を「トースト! 」と言うようになったんだとか。
事実、今でも黒ビールなどを飲む時にトーストを加えるお方もいるようですね。
食パンにも大きく分けて、二つがありまして。「角食パン」と、「山食パン」と。もちろん、好みの問題ではありますが。
好みといえば、食パンの厚さ。「八つ切り」なのか、「四つ切り」なのか。
これは焼き方とも関係があるみたいで。かりかりの焼き方なのか、ふんわりがお好きなのか。
渋谷区代々木に「ブランジェリー・ラ・セゾン」という店があって。「この店の食パンでなくては」とおっしゃるお方がいるんだそうですね。
あるいはまた、「ボン・ビボン」。これは横浜、青葉区のパン屋。食パンの焼き上りを待つ常連客がいるんだそうですね。
食パンの味わいに凝る人もいるんでしょう。

「僕は學生時分には食麺麪を持つて来て、大入場で一日暮したものだが、」

作家の正宗白鳥が、明治四十四年に発表した『泥人形』に、そのような一節が出てきます。これは当時の芝居小屋での話として。
これは物語の主人公「重吉」の科白。
正宗白鳥が、今の早稲田大学に入ったには、明治二十九年のこと。
明治二十年代には食パンを持って、芝居小屋に入る学生もいたのでしょうか。

「彼等は毎朝主人の食う麺麪の幾分に砂糖をつけて食ふのが例であるが、」

明治三十八年に、夏目漱石が発表した『吾輩は猫である』に、そのような描写が出てきます。
明治三十年代には食パンに砂糖をかけることがあったものと思われます。
少なくとも漱石自身は、食パンにジャムをたっぷり添えるのが、お好きだったようですが。
トーストが出てくる小説に、『モンテ・フェルモの丘の家』があります。1984年に、イタリアの作家、ナタリア・ギンズブルグが発表した物語。

「腰かけると、紅茶を飲み、キャヴィアをのせたトーストを何枚も食べた。」

これは「イニャツィオ・フェジツ」という男の様子として。
キャヴィアをのせたトースト、一度は食べてみたいものですね。
また、『モンテ・フェルモの丘の家』には、こんな描写も出てきます。

「草色のつなぎと、革ジャンと。その日、昼食には現れず、しばらくのあいだ、どこでなにをしているのか、まったくわからなかった。」

これは「ジュリアン」と「アデルモ」のふたりの男について。
ここでの「つなぎ」は、オーヴァオールのことでしょうね。
イタリア語なら、「トゥッタ」tuta でしょうか。
どなたかブルウのトゥッタを作って頂けませんでしょうか。