アンソロジーとアバクロンビー&フィッチ

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アンソロジーというのがありますよね。「詞華集」などと訳されたりもするようですが。要するに、作者の異なる名詩なり名文を、一冊に蒐めたものを指すのでしょう。
具体的な例を挙げますと。『恋愛について』。これは、中村真一郎が編者となって、1989年に、岩波文庫として出ています。
執筆者は、森 遥子、富岡多恵子、大庭みな子、倉橋由美子……………。瀬戸内寂聴、吉行淳之介などももちろん加わっております。
遠藤周作は、『男性のドン・ファン的心理について』の文章が収められています。アンソロジー『恋愛について』を熟読すると、恋愛についてぜんぶ知ったふりをすることができるかも知れません。まあ、そこがアンソロジーの良いところなんでしょうね。
十世紀の頃。コンスタンティノープルの、ケパラスという人が、『アンソロジー』を編んだ。これは古代ギリシアの名詩を蒐めたものだったという。詩を花に喩えて、「アンソロジー」。この『アンソロジー』が、比較的はやい例なんだそうですね。
2006年に早川書房から出たアンソロジーに、『夜の旅その他の旅』があります。いうまでもなく、「旅」を題とする名文を蒐めた一冊の本。たと、チャールズ・ボーモントの『鹿狩り』が収められています。この中に。

「二人とも、アバークロンビイ・アンド・フィッチの狩猟服を着こんで…………………」。

なにしろ『鹿狩り』ですから、狩猟服が出てくるのも当然でしょう。ただしそれが、「アバークロンビイ・アンド・フィッチ」製とくれば、たいへんなものであります。1960年当時、世界でもっとも高価だった狩猟服だから。いや、狩猟服とは限らず、旅行用品の専門店だった店。ニューヨーク、マディスン・アヴェニューにあった超高級店。ただの高級店ではありませんでした。
デイヴィッド・アバークロンビーと、エズラ・フィッチとが共同ではじめたので、その名前になったのです。1892年のこと。
そうそう、むかしの高級店ばかりが出てくるアンソロジー、誰か作ってくれませんか。

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