アパルトマンと新しき背広

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アパルトマンは、アパートのことですよね。でも、今、「アパート」は、少ないのかも知れませんね。
「マンション」と言うことが、多い。ごくふつうに考えて、「マンションに住んでいる」と思っている人のほうが、多いでしょう。しかし「マンション」は邸宅ですからね。たぶん、日本には富豪が少なくないのでしょうね。
パリにアパルトマンを長い間持っていた人に、辻 邦生がいます。辻 邦生はパリの大好きな作家でもあって。何も意識しないで読んでいると。フランスに住んでいるフランス人が書いた小説。辻 邦生はそんな気分の物語をたくさん書いています。これも、パリに、もうひとつの住まいがあったからかと、思われます。

「一九八〇年の夏、デカルト街三七番長にアパルトマンをみつけてくださったのは、新聞の連載小説に二度も挿絵を描いて下さった福本章氏とその夫人律子さんであり………………」。

辻 佐保子著『辻邦生のために』に、そのように出ています。
「デカルト街三七番地」は、レストラン。昔は、オテル。偶然のことながら、若き日の、ヘミングウェイが住んでいた場所。
辻 邦生はヘミングウェイの小説が好きで、パリ、東京の行き帰りの船で、ヘミングウェイばかり読んで。それはほとんど、暗誦できるくらいだったそうです。
辻 邦生は、そんなこともあって、「デカルト街三七番地」のアパルトマンに愛着があって。住まない時代の二十年間を含めて、家賃を払っていたという。

仕立ててまもない明るい色合いの背広を着て、少し早めに家を出た。」

同じく『辻邦生のために』の、一節。
これは晩年の、辻 邦生。銀座での食事の約束があって。新しい背広を。

フランスはあまりに通し
せめて新しき背広を着て、旅に出ん

朔太郎の詩にそんなのがあります。「新しい背広」には、気分を引き締めてくれる何かがあります。
「新しき背広」には、いつも夢がありますね。

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