アドリブが効いている映画に、『第三の男』がありますよね。
「スイス 500年の平和と民主主義はいったい何をもたらした? 鳩時計だよ。」
もちろんこれは、ハリーの科白。でも、脚本にはない。ハリー役を演じたオーソン・ウエルズのアドリブなんですね。
『第三の男』は、グレアム・グリーンの小説の映画化ではなくて。最初から映画のためにグレアム・グリーンが脚本として書いたんだそうですね。
『第三の男』を観たひとりに、遠藤周作が。遠藤周作はグレアム・グリーンに近い想いがあったでしょうから、当然のことかも知れません。
「今日、午後、クレマンソー通りの、オリンピアで、グレアム・グリーン「第三の男」を見た。カンヌの一等賞をとった作品だ。音響が素晴らしい。ギター一本で、たまらない哀調を画面にただよわせている。俳優、ことごとくうまい。ラストシーンの、秋風に木の葉がサラサラとおちる場面も素晴らしい。」
1951年8月21日 ( 火 ) の日記にそう書いています。遠藤周作はこの日、リヨンの映画館で観ているんですね。
遠藤周作はまた、ユウモアを愛した人でもあって。親友の北杜夫に向かって。
「キミねえ、子供は金貨ジャラジャラいわせて遊ばせるようでなくては……」
で、北杜夫が遠藤周作の家に行ってみると。たしかに男の子が金貨で遊んでいる。でも、よくみると、それは金貨チョコだったとか。
遠藤周作のユウモアのセンスは留学先のリヨンと関係があるのか、ないのか。
リヨンが出てくるミステリに、『アパルトマンから消えた死体』が。この中に。
「でも正真正銘のきわめつけはーオシュコシュの服! とても高価で、金のように扱われています。」
キャサリン・ホール・ペイジ著 沢 万里子訳。
オシュコシュが「金」。それはリヨンだから。それともジョーク。
オシュコシュはアメリカのワークウエア。丈夫で、長持ち。オシュコシュのワーク・シャツだ。なにかアドリブのひとつでも出るといいのですが……。