ハンカチは、便利なものですよね。手を水とせっけんでよく洗った後、濡れた手を拭くことができますから。鼻水が落ちてきそうな時にも、ハンカチのお世話になることがあります。
暇で暇で仕方ないときには、ハンカチでネズミを作って遊ぶこともできるでしょう。ハンカチは風呂敷代わりにも、スカーフ代わりにもなります。
「ハンカチーフ」handkerchif を短くして、ハンカチ。これはもう言うまでもないでしょう。幕末から明治になりまして、「ハンカチーフ」が西洋から伝えられる。このときには主に、「ハンケチーフ」だったという。「ハンケチーフ」を略して、ハンケチ。このハンケチに宛字して、手巾。「手巾」でハンケチと訓ませたわけであります。この「ハンケチ」のやや崩した形が「ハンカチ」だったようですね。
樋口一葉が、明治二十八年に発表した名作に、『にごりえ』があります。この中に。
「いひさしてお力は溢れいづる淚の止め難ければ紅の手巾かほに………………」。
「手巾」の横には、「ハンケチ」とルビがふってあります。一葉はたぶん「ハンケチ」と呼んでいたのでしょうね。
夏目漱石が、明治三十八年に発表した短篇に、『倫敦塔』があります。夏目漱石が実際に倫敦塔を訪ねたのは、明治三十三年十月三十日のこと。漱石がはじめて倫敦に着いてのは、十月二十八日のことですから、その三日の後のことになります。漱石は『倫敦塔』の中に。
「女は白き手巾で目隠しをして………………」。
ここでの「手巾」にも、「ハンケチ」のルビがふってあります。漱石もまた一葉と同じく、「ハンケチ派」だったものと思われます。『倫敦塔』には、こんな描写も出てきます。
「彼がエリザ式の半ヅボンに絹の靴下を………………」。
これは漱石が倫敦塔で、サー・ウオーター・ローリーの空想に耽る場面。もちろんエリザベス朝の衣裳に見るニー・ブリーチーズのことなのでしょう。
ニー・ブリーチーズはさておき、今も文字通りの「半ズボン」なら穿けます。さて、半ズボンにハンカチをしのばせて、颯爽と出かけましょうか。