ボンソワールは、フランスでは「こんばんは」の意味なんだそうですね。似たような言い方に、「ボンニュイ」があるんだとか。
ソワールもニュイも「夜」ではあるんでしょうが。ソワールは「浅い夜」、ニュイは「深く夜」。夕方、友だちに会ったりすると、「ボンソワール」。深夜に会うと、『ボンニュイ」。
日本語の「おやすみなさい」に近いのも、「ボンニュイ」。
そういえばむかし、「ソワール・ド・パリ」という香水がありました。若い頃好きだった女がソワール・ド・パリを………。そんな話はさておき。「ソワール・ド・パリ」。フランスはもとより、日本でもずいぶん流行ったものです。
黄昏色の青いボトルに入っていて、半月型。セエヌの夕暮れ時を想わせる薫りでありました。事実、夕暮れ時のセエヌを背景にしたポスターも作られています。このポスターもまた、話題になって。
1862年創業の「ブルジョワ」という化粧品会社が、1929年に発表した名香。ソワール・ド・パリを調香したのが、エルネスト・ボオ。あのシャネルの五番を創った調香師。ソワール・ド・パリは、今は幻の名香であります。
ところで、ボンソワールが出てくるミステリに、『プレイボーイ・スパイ 1」があります。1965年に、ハドリー・チェイスが発表した物語。これは、英国人が書いた、パリが背景となる、スパイ物。
「女は会釈して「今晩は」というと……………」。
「今晩は」の横に、「ボンソワール・ムッシュー」と、ルビが振ってあります。また、『プレイボーイ・スパイ 1」には、こんな描写も。
「非のうちどころのないサヴィル街仕立ての背広を着て、ボタン穴にはこい赤のカーネーションをさし………………」。
これは謎の富豪、ハーマン・ラドニッツの着こなし。
「ボタン穴」は、襟穴のこと。襟穴は正しくは、「ボタン・ホール」と言います。まあ、昔の第一ボタンの穴ですからね。
一度でいいから、ボタン・ホールに花を挿して、「ボンソワール」と言ってみたいものではありますが。