コルクと紺無地

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コルクは、壜の栓なんかに使われますよね。たとえば、ワインの栓もコルクであることが少なくありません。
でも、どうしてコルクの栓なのか。液体を通すことなく、気体は通すことがあるからでしょう。つまりワインは溢れることなく、最低限の呼吸はしてくれるという特質があります。
ワインの専門家は、コルク栓を抜いた時、必ず匂いを確かめる。その匂いである程度、中身の状態を推理するのです。たとえば、「ブショネ」だとか。直訳すれば「栓の鼻」。これは中のワインの状態が最上ではない時に、よく使われるようですね。
ところでコルクなのか、キルクなのか。コルクという人もいれば、キルクと呼ぶ人もいます。

「けるきい」といふは、圖三種を示し、「形状大小種々あり………………………」。

寛政十一年刊行の、『蘭説辨惑』にはそのように出ています。ここでの「けるきい」は、キョルクのことでしょう。
オランダ語の、「キュルク」 k urk から日本語が生まれたに違いありません。このキュルクから、キルクになって、さらにコルクと変化したのでしょうね。つまり、コルクよりもキルクのほうが古風な名前なのかも知れません。
コルクが出てくる小説に、『裏声で歌へ君が代』があります。1982年に、丸谷才一が発表した物語。

「半分ほど赤く染まったコルクを梨田は二度ばかりもつともらしく嗅ぎ、自分の右前に立てた。それは白いテーブル・クロースから生えた茸のやうである。」

これは「梨田」がレストランで食事をしている場面。丸谷才一はソムリエのことを、「葡萄酒係」と書いています。
また、『裏声で歌へ君が代』には、こんな描写も出てきます。

「紺の背広に白いワイシャツ、そして紺一色のネクタイで………………」。

これは、「村川厳太郎」の着こなし。紺無地のネクタイは佳いものですね。
「私は紺無地のネクタイしか結ばない」。そうおっしゃるお方も、珍しくはないでしょう。
紺無地のネクタイ。それは最上のタイに近づく賢明な方法でもあります。紺無地とは、もう他に見るところもないわけで、上質の絹地を使わざるを得ません。結果、少なくとも絹の質だけは佳いものを手にすることができるでしょう。
佳いネクタイとは、一度結んだなら、めったに緩まない一本のことです。

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