パンス・ネは、鼻眼鏡のことですよね。ふつうの眼鏡とは異なって、テンプル(弦)が省略されているものです。
ほとんど左右のレンズだけ。後はレンズの枠とブリッジだけ。これを鼻に挟んで眼の前に固定するので、鼻眼鏡。英語では、「パンス・ネ」。「鼻挟み」の意味。もともとはフランス語なのですが、英語でもそのままパンス・ネ
pince nez と呼ばれるのです。
日本作家では、佐藤春夫が愛用者でしたね。政治家では、吉田 茂でしょうか。
短い口髭にリボン付の鼻眼鏡を掛けた若紳士である。
永井荷風の『あめりか物語』に、そんな一節が出てきます。これは当時のニュウヨーク、五番街、セントラル・パークの並木道を往く四輪馬車の持主の様子として。
馬車全体をはじめ、馭者の制服に至るまで、すべて美しいブルウで統一されていて、そうも書いています。時は、春。
その頃のニュウヨークでは、婦人帽子屋の飾窓に、明るい色の帽子が並んだのを見て、人は春の来たのを識る、とも。
鼻眼鏡には、紐のついたのもあります。鼻から外した時、下に落ちてしまわないために。
鼻眼鏡が出てくる小説に、『クラルテ』があります。1919年にフランスの作家、アンリ・バルビュスが発表した物語。
「彼は鼻眼鏡を普通の眼鏡に代えていたが。」
ここでの「彼」とは、ミルヴァークという人物。
また、『クラルテ』には、こんな描写も出てきます。
「身には飾がついた黒白碁盤辨慶縞の短衣を着け、専売特許の新しい鞣皮の靴を穿いているのだが、その靴を見まいとしても見ないではいられない。」
これは物語の主人公の服装として。
おそらく「パテント・レザー」のことかと思われます。1820年代に特許を得たとの節があります。もともとは馬具を作るための革だったそうです。
どなたかパテント・レザーのパンプスを作って頂けませんでしょうか。