解説を読むのは、愉しいものですよね。ほら、文庫本などを買うと、たいていおしまいのところに「解説」がついているではありませんか。
ごく一般的にいって。本はまず単行本として出る。やがてそのうちに、文庫本に。文庫本には単行本にはなかった「解説」がついたりする。付録。なんか得した気持になりますよね。
しかもあの「解説」に、名文があったりする。
「解説」はどうも著者好きな人にお願いすることが多いみたいですね。ということは直接関節に、著者を知っている人が書くわけで。そりゃあ面白いものになるでしょうね。
たとえば。『新・パリの居酒屋』 ( 新潮文庫 ) 。もちろん、辻 静雄著。居酒屋のところに「ビストロ」のルビがふってあります。この「解説」が、阿川弘之なんですね。
阿川弘之の「解説」はまず、梅原龍三郎の話からはじまって。
梅原龍三郎は百歳くらいまでお元気だった。若い頃は健啖家で、美食家で。でも、最晩年にはさすがにほとんど召し上がらなかった。でも、客が来ると、「一緒に飯を食おう」という。
どんなふうにするのか。メニューを持ってきてもらって。客とともにメニューを眺めて、大いに美食について語るんだそうです。メニューを食べるとでも言えば良いでしょうか。
辻 静雄には数多くの著書があります。ひとつの例として、『ヨーロッパ一等旅行』が。この解説は、深田祐介。この解説もまた、辻 静雄の本質に迫っての名文。それはともかくとして。
「テーブルに坐っているお客さんたちの服装をみると、ああこれは相当なもんだわいと思わせられる雰囲気なのである。」
これはカンヌに近い、ムージャンにあるオーベルジュに入った時の第一印象なんですね。つまり来ている客の服装でその店の味が分かる。服を食べる話でしょうか。
「濃い臙脂のタートルネックに紺のブレザー、渋く深いグレーのスラックスの初老の紳士。」
これは近くの席に座っている客の着こなし。美食を味わうなら、美服で、ということなんでしょう。
好みのブレイザーを着て。名解説のある文庫本を探しに行くとしましょうか。