スプーンとスティフ・ブザム

スプーンは、匙のことですよね。
スープを食べる時には、スプーンが役に立ちます。
スプーンは人の名前にも関係があるD」しょう。
たとえば、「スプーナー」。Spooner と書いて「スプーナー」。
ひとつの例ですが。
ウイリアム・アーチボルド・スプーナー。
十九世紀英国の聖職者であったお方。
「頭韻転換』が口癖だったお方。
「ウエル・オイルド・バイシクル」(よく油が差してある自転車)と言おうとした場合。
「ウエル・ボイルド・アイシクル」になってしまう。
ボイルドの頭の音と、バイシクルの頭の音とが入れ換わって。
これが「頭韻転換」。辞書を引きますと、「スプーナリズム」と出ています。
ウイリアム・スプーナーの癖だったので。
スプーンが出てくる紀行文に、『航米日録』があります。
万延二年(1861年)に、玉虫左太夫発表したアメリカへの旅の記録。
玉虫左太夫は万延元年に、遣米使節の一人として、アメリカに渡っている人物。

「フヲーク、ナイフ・スブウンヲ人数に応ジテ卓子上ニ並べ、食セントスルトキ、是三品ヲ用ヒ、」

玉虫左太夫はそのように説明しています。
ここでの「スブウン」は、おそらくスプーンのことかと思われるのですが。
匙が出てくる小説に、『銀の匙』があります。
中 勘助が大正十年に発表した物語。

「なかには子安貝や、椿の實や、小さいときの遊びであつたこまごましたものがいつぱいつめてあるが、そのうちのひとつの珍しい形の銀の小匙があることをかつて忘れたことはない。」

中 勘助は『銀の匙』を、このように書きはじめています。
スプーンが出てくる小説に、『マーティン・イーデン』があります。ジャック・ロンドンが、1909年に発表した長篇。

「また豆汁を小鍋からすくうのに、つぶれた鉄のスプーンを使っているという次第だ。」

これは物語の主人公、マーティン・イーデンが食堂に入った時の先客の様子として。
また、『マーティン・イーデン』には、こんな描写も出てきます。

「袖口やシャツの襟やカフ布、それにシャツの胸などが、」

これはマーティン・イーデンが、副業として洗濯屋で働いている場面。
ここでの「シャツ胸」は、「スティフ・ブザム」
stiff bosom のことでしょう。
硬く硬く糊づけされた胸元のこと。
どなたか本格的なスティフ・ブザムのシャツを仕立てて頂けませんでしょうか。