スターンで、ヴァイオリニストでといえば、アイザック・スターンでしょうか。
アイザック・スターンは、1920年7月21日、ウクライナに生まれています。でも、物心つく前に、家族でアメリカ、サンフランシスコに移っています。音楽教育もサンフランシスコではじめています。その意味では「アメリカ人」というべきでしょう。
むかし、ミュージカル映画に『屋根の上のバイオリン弾き』というのがありました。あの中で、実際にヴァイオリンを弾いていたのも、アイザック・スターンだったのですね。
スターンは決して珍しい姓ではなくて、英国にもスターンの名前があります。たとえば、ローレンス・スターンだとか。もしかすれば、ローレンス・スターンを日本に紹介したのは、夏目漱石だったかも知れません。
「今は昔し十八世紀中頃英国に「ローレンス、スターン」といふ坊主住めり、最も坊主らしからざる人物にて、最も坊主らしからぬ小説を著はし…………………。」
漱石が明治三十年に書いた『文學評論』の中に、そのように出ています。もちろん、ローレンス・スターンに他なりません。
漱石が言うところの「最も坊主らしからぬ小説」とは、『トリストラム・シャンデー』のこと。これは、1760年頃に出版されて、今では「イギリス小説の父」と謳われています。『トリストラム・シャンデー』は、長篇難解の書簡小説。でも、十八世紀の英國の生活を識る上では貴重な資料でもあるでしょう。
「お百姓のニコラスのおかみさんと娘たちから、手紡ぎの地味な色のラシャを……………………。」
これはパミラという小間使いが、お母さんに宛てた手紙という設定になっています。十八世紀中葉にもまだ、家庭内での手紡ぎがあったことが偲ばれます。この文章の少し後に。
「かなりなスコッチの布を手に入れて………………………」。
ここでの「スコッチ」は、たぶんトゥイードなのでしょう。手染め、手紡ぎ、手織の。
まあ、ごくふつうのトゥイードで、スターンの本を探しに行くとしましょうか。