スカートとスペンサー

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スカートは女の人の装いですよね。男がスカートを穿くには、スコットランドに生まれるに限ります。
スカートが出てくる小説に、『或る女』があります。

「洋装の田川夫人は葉子を目指して、スカーツの絹ずれの音を立てながら……………………。」

『或る女』が、大正二年の作、有島武郎の名作であるのは、いうまでもありませんね。時代背景は明治になっています。主人公は、早月葉子。
有島武郎は、「スカーツ」と書いています。が、もちろんスカートのこと。「絹ずれ」はまた「衣ずれ」とも。スカートがアンダー・スカートと触れあって、さらさら鳴る音。貴婦人のおしゃれには、優雅な音色もあるわけです。そして世の殿方は衣ずれの音に惹かれ、悩まされるものであります。
フランス語なら、「フルフル」。『フルフル』という題のシャンソンの名曲があるのは、ご存じの通り。
『或る女』の早月葉子にはモデルがあって、佐々城信子。明治期のまことに進歩的女性でありました。また、恋多き美女でも。最初の結婚相手が、國木田独歩。それから、それから………………。
1954年に『或る女』が映画化された時、早月葉子を演じたのが、京マチ子。京マチ子の相手役が、森 雅之。森 雅之は、有島武郎の息子。息が止まる美男子でありましたね。
フランスの小説で、スカートの出てくるものに、『深紅のカーテン』があります。1874年に、ジュール・バルベー=ドールヴィイが発表した物語。

「晩課の始まりを告げる鐘が鳴り響くやすべてのスカートは姿を消し………………………」。

また、『深紅のカーテン』には、こんな描写も出てきます。

「縁飾りを垂らした緑いろの絹のスペンサーの輝くばかりの………………」。

スペンサー sp enc er は、英國の、十八世紀後半に生まれた、スカートのない上着のことですね。当時のスペンサー伯爵が、暖炉で焦がした裾を切り落として誕生したと、伝えられています。
時にはスペンサーを着て、スカートを見、フルフルを聴きに行きたいものです。

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