ぶどう酒は、ワインのことですよね。フランスならヴァンでしょうか。イタリアならヴィーノでしょうか。ぶどうの実を原料に醸す酒なので、ぶどう酒となるわけです。
ぶどう酒の歴史には古いものがあります。もちろん、古代にも。
「言語のちがう国人のもとへと、ぶどう酒色の海上に帆を走らせ、青銅をもとめてテメセーへと行く途中なのだが」
ホメーロスの『オデュセイア』に、そのような表現が出てきます。これは、タポス島のメンテースという若者が交易に出ている場面として。鉄と青銅を交換するために。
それはともかくホメーロスを読んでおりますと、何度も「ぶどう酒色の海」の形容が出てくるのです。ホメーロスにとっての海はいつもぶどう酒色でもあったかのように。少なくともホメーロスの時代に、ぶどう酒が身近な存在だったことは間違いないでしょう。
「王様が手に持った、金の盃に、ブドウ酒が注がれました。」
レオナルド・ダ・ヴィンチが書いた童話『王様とブドウ酒』に、そんな一節が出てきます。
レオナルド・ダ・ヴィンチの童話。にわかには信じられないことですが。レオナルド・ダ・ヴィンチはミラノ宮廷で世話になっていた時代、ざっと二百ばかりの童話を書いているのです。おそらくは宮廷の王子たちに読んで聞かせるためのものであったでしょう。
「パリですごすのにぶどう酒のカラフや、コニャックのデギュスタシオン、また、風船玉と呼ぶワイン・グラスなどから手をはなして日を送るのはとてもできない相談である。」
開高 健は、『お酢とぶどう酒』という随筆の中に、そのように書いています。たしかに、おっしゃる通りでしょう。パリは、ぶどう酒の都ですからね。
ぶどう酒が出てくる小説に、『砂の都』があります。1959年に、フランスの作家、マルセル・ブリヨンが発表した物語。
「シンドバートがそのブドウ酒を飲んで陽気になったのを見て、老人はシンドバートからそのヒョウタンをもらい受け、ブドウ酒を飲んで酔いしれる。」
あまりに有名な『千夜一夜物語』のひとつですね。
また、『砂の都』には、こんな文章も出てきます。
「それはモンゴルの老人で、褪せたバラ色の寛衣をまとい、キツネの皮でつくった広い帽子をかぶっていた。」
なるほど。フォックス・ハットなんですね。
どなたかフォックスの毛皮で帽子を作って頂けませんでしょうか。