大岡とアスコット

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大岡で、作家でと言えば、大岡昇平でしょうか。
大岡昇平は昭和十九年に。マニラへ。兵隊として。昭和二十年一月には、アメリカに捕らえられています。レイテ島のタクロバンで。
この時の経験を書いたのが、『レイテ戦記』なんですね。つまり捕虜になるわけですが。捕虜というのは暇で、暇で。暇であるのはアメリカ兵のほうでもよく分かっている。で、本を貸してくれるんですね。
その本が米兵向けの、ミステリ。たとえばアガサ・クリスティの『そして誰もいなくなった』とか。ダシール・ハメットの『ガラスの鍵』だとか。ウイリアム・アイリッシュの『幻の女』とか。
江戸川乱歩はアイリッシュの『黒衣の花嫁』を昭和二十一年に読んだ。でも私は昭和二十年に読んだ、と書いています。「私」とはもちろん、大岡昇平。
大岡昇平は『幻の女』と、クリスティの『そして誰もいなくなった』だけは手放すことができなくて。日本に持ち帰ったそうです。
クリスティの『アクロイド殺し』は1926年に話題沸騰。ミステリとしてフェアかアンフェアか。これで一挙に、クリスティの名前が挙がるんですね。
『アクロイド殺し』が劇として上演されたのが、1928年。ロンドンの「プリンス・オブ・ウエールズ劇場」で。
1928年、パリで発表されたのが、『バーネット探偵社』。もちろん、モーリス・ルブラン。バーネットとは、世を忍ぶ仮の名前。言わずと知れたアルセーヌ・ルパン。このなかに。

「これは痩せぎすで大柄のエナージックな顔付の人物で、グレーのモーニングの下に……」

これはデロック将軍の着こなし。たぶん、アスコット・モーニングを着ているのでしょう。
アスコット・モーニングは夢物語ですが。なにかお気に入りの服で。大岡昇平の本を探しに行くとしましょうか。

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