スタイルは、よく使いますよね。「季美枝さんは、スタイルが佳いからね……………………」なんてふうに。
スタイルは「姿」と同時に、「文体」の意味もあります。いや、まず最初に「文体」の意味があって、それから「姿」の意味が生まれたんだそうです。
では、どうしてスタイル sty l e が「文体」なのか。昔むかし、紙のない時代には、粘土板に書いた。「スティルス」 sty l us という尖筆で、書いた。このスティルスから、「スタイル」=「文体」となったらしい。
「演奏家が楽器の試し弾きをし、音の組み合わせを求めているうちにそれに引き込まれてゆくように、彼は言葉を演奏する。」
アランは、『芸術について』の中に、そんなふうに書いています。「彼」とは、ラブレエのことであります。フランソワ・ラブレエは、中世、フランスの偉大な作家。『パンタグリュエル物語』は、代表作。
もちろん、中世のフランス語で書かれていて、日本語訳は不可能とさえ言われていたもの。その不可能を可能にしたのが、渡辺一夫。優れたフランス文学者であります。
「殿のおつむを晴々とさせ、動物精気を盛んにし、おめめを生々とさせ、食欲を増進させ………………」。
この調子で、終わることがないのです。まさにモオツアルトの音楽でありましょう。
文体に音楽があるように、着こなすのスタイルにも、音楽があってしかるべきなのかも知れませんね。
文体が出てくる小説に、『ダイヴィング』があります。舟橋聖一の短篇。
「奇抜なスタイルを持つた詩や小説が書かれ、こゝに集る若い作家たちは………………」。
『ダイヴィング』には、またこんな描写も出てきます。
「鼠がかつたストロオの帽子を冠つた江島逸子が先に立ち………………」。
ストロー・ハットは、もちろん麦藁帽子のこと。むかしはイタリアの、トスカーナ地方の麦が佳いなどと言われたりもしたものですが。
さて、白麻に、ストロー・ハットをかぶって。「音楽」が聴こえてきますか、どうか。