レネとレザーバスケット・ボタン

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レネは、フランスによくある名前ですよね。R esn a is と書いて、「レネ」と訓むんだとか。訓んではもらえない文字がたくさんあるのは、ちょっと可哀想な感じがします。
レネ。でも、憶えやすい名前。アラン・レネだとか。アラン・レネは、フランスの映画監督。たとえば、1961年の映画『去年マリエンバートで』があります。
『去年マリエンバートで』は、芥川龍之介の『藪の中』を下敷にした映画ということになっています。
今でも、「藪の中」という言い方をしますよね。「ほんとうのところはよく分からない」の意味になります。この表現は芥川龍之介の『藪の中』から出ているのです。
『藪の中』は、大正十一年「新潮」一月号に発表された短篇。できましたなら、この大正十一年という年をご記憶頂きたいのですが。
ある殺人が行われたものの。それを見た人の話がすべて、異なっていて。「ほんとうのところは分からない」という内容になっています。
『去年マリエンバートで』の脚本を書いたのが、アラン・ロブグリエ。監督が、アラン・レネ。レネも、ロブグリエも、1922年の生まれ。つまり日本の年号では、大正十一。つまり、日本で『藪の中』が発表された年におふたりは、生まれているわけですね。
それはともかく、難解を絵にしたような映画が、『去年マリエンバートで』。そこで作られた冗句があって。ロブグリエ自身もよく使ったらしい。

警官 「君は怪しい奴だな。このあたりは事件が多いんだよ。
青年 「別に、何もしていませんよ」
警官 「では、昨日の夜は、何をしていた?」
青年 「きのうの夜は、「去年マリエンバートで」の映画を観ていましたよ。
警官 「じゃあ、筋を説明してみろ。」

以上。つまり、『去年マリエンバートで」は、とても粗筋が説明できない映画というのが、オチなんですが。
アラン・ロブグリエが、1959年に発表した小説に、『迷路のなかで』があります。この中に。

「土色のズックの色あせたジャンパーのボタン、皮を編んでつくった三箇のボタンを、ひとつまたひとつと、ボタン穴にとおしてとめる。」

これは看護人が着ているブルゾンのボタン。
たぶん、レザーバスケット・ボタンなんでしょうね。アラン・ロブグリエにしては、実に分かりやすい。
レザーバスケット・ボタンの上着を着て。『去年マリエンバートで』を観に行くとしましょうか。

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