ウインザー・ノット(windsor knot)

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謎と伝説の結び

ウインザー・ノットはネクタイの結び方のひとつである。大きく、ほぼ正三角形に近い結び目に仕上がるのが、特徴とされる。

今、もっとも多く使われている結び方は、「ハーフ・ウインザー」であろう。が、もっともよく知られている結び方の名前は、「ウインザー・ノット」ではないだろうか。

「戦後日本に駐留していた米兵のネクタイの締め方は大抵、ウィンザー・ノットであった。( 中略 ) 私も永年ネクタイの結び方はウィンザー・ノットにしてきた。」

高橋義孝著『蝶ネクタイとオムレツ』( 1968年刊 ) には、そのように書かれている。洒落者でもあった、ドイツ文学者、高橋義孝もまたウインザー・ノットの愛用者だったのであろう。

卵が先か鶏が先か、という問題にもなるのだが、ウインザー・ノットはそれ自体が独立して存在しているわけではない。ウインザー・カラーあってこその、ウインザー・ノットなのだ。ウインザー・カラーとは、イギリスでいうところの「カッタウェイ・カラー」 ( スプレッド・カラー ) のことである。襟腰が高く、襟先が大きく左右に開いた形。少なくともウインザー・ノットがウインザー・カラーに最適であることは間違いない。

「ウインザー・ノットはいかに結ぶべきであるのか。」

1953年『マン・アバウト・タウン』春号の記事の一節である。『マン・アバウト・タウン』は、イギリスのファッション誌。英国でのウインザー・ノットの紹介としては、比較的はやい例と思われる。しかしそれ以前にウインザー・ノットがなかったわけではない。

アメリカのファッション誌『エスクワイア』は、1930年代末に「ウインザー・ノット」を紹介している。ウインザー公の好むネクタイの結び方であるから、「ウインザー・ノット」。まことに理路整然とした命名であっただろう。たしかに1930年代の、ウインザー公の結び方を見ると、「ウインザー・ノット」と呼びたいものになっているのだ。この上なく、説得性もある。

エスクワイア編『ファッション・フォー・メン』(1957年刊 ) を眺めると、ネクタイの項にウインザー・ノットが出ている。それは図解で、分かりやすい。が、フォア・イン・ハンドと、「ウインザー」との二種だけ。フォア・イン・ハンドがスリップ・ノット ( プレーン・ノット ) であるのはいうまでもない。しかし『ファッション・フォア・メン』を信じる限り、ネクタイの結び方はフォア・イン・ハンドとウインザー・ノットさえ知っていれば良いとも受け取れる。少なくとも、1950年代のアメリカでウインザー・ノットが好まれたことは疑いのないところであろう。そして、もう一歩進めて、世に「ウインザー・ノット」を広めたのは、アメリカ。それも『エスクワイア』誌ではなかったか。

「彼はウインザー・ノットに結んだ黒絹のニット・タイを少しゆるめながら、軽くうなづいた。」

テネシー・ウイリアムズ著『青春の甘き鳥』 (1959年刊 ) の一文である。黒のニット・タイをウインザー・ノットで結ぶのが最上の方法であるかどうかは知らないが、1950年代のアメリカで、ウインザー・ノットが流行していたことが、想像できるに違いない。

1960年代になって、イギリスのリッチフィールド伯爵がウインザー・ノットに対しての素朴な疑問を抱く。「あのネクタイは本当にウインザー・ノットで結んでいるのだろうか?」と。パトリック・リッチフィールド伯爵は、エリザベス女王のいとこであり、また写真家でもあった。

それでパトリック・リッチフィールドは、晩年のウインザー公に対して、その疑問を投げかけるのである。さらには実際に、ネクタイを結んでもらい、写真に撮ってもいる。それはちょうど分解写真のようになっているのだ。

そのリッチフィールドの写真を見る限り、ウインザー公はスリップ・ノットで結んでいるではないか。もちろん我われがふつう「プレーン・ノット」と呼んでいる結び方の。

1920年代末、当時皇太子であったウインザー公は、ウインザー・カラーに合わせるための、一重 ( ひとえ ) に結んで大きくなるネクタイを作ったのだ。その特別のネクタイは、ロンドンのテイラー「ホーズ&カーティス」製であった。

ウインザー・ノットの秘密はその結び方ではなく、ネクタイそのものにあったわけである。

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