ガンは、手袋のことですよね。gant と書いて「ガン」と訓みます。左右一対で役立つものですからふつうはgants と書くんだそうですが。
ガンは五本指の手袋。二本指の手袋なら、「ムウフル
」moufleとなるんだとか。英語でいうところの「ミトン」ですね。
男の手袋は決闘と関係があったんだそうです。決闘を申し込むには、相手の足元に自分の手袋を投げつけた。この投げられた手袋を相手が拾って受け取ったなら、決闘を受けたぞの印になったんだという。
フランスの「ガン」は、昔の騎士の籠手と関係があるのでしょう。籠手は、「ガントレット」gauntlet と呼ばれたものですからね。
手袋が出てくる短篇に、『手袋のかたつぽ』があります。永井龍男が、昭和十八年に発表した物語。戦前の、昭和のはじめが物語の背景なのですが。
「身綺麗な、なかなか品のある顔立ちの青年だつたが、店の外で見覺えのある手袋を拾つて渡してやつたのが縁になつて」
これは×氏が語ってくれた話として。ここでの「店」とは何か。その頃神田にあったミルクホール。ミルクホールでは何を食べるのか。
「あれを割つて牛乳のコップに浸して新聞を見ながら食べる、なんとも云へぬうまさでね。」
もちろん、×氏の話。「あれ」とは当時の菓子パン小判形の菓子パン。ピーナツで固めた菓子パン。×氏は名前を思い出せないでいるので、「あれ」。
手袋が出てくる小説に『ランジェ公爵夫人』があります。フランスの作家、バルザックが、1834年頃に発表した物語。
「夫人は腰をおろして手袋をはめようとしたがうまくゆかず、きつめの皮手袋に指をいれようとしながら、そのたびにモンリヴォーを見やるのだった。」
もちろん、ランジェ公爵夫人の様子として。
また『ランジェ公爵夫人』には、こんな描写も出てきます。
「なよやかな女は美しく襞をとったカシミア織りの茶色の部屋着をまとい、ほの暗い部屋の長椅子のうえに」
「カシミア織り」。フランスなら「カシミール」cachemire でしょうか。
女ではありませんが、どなたかカシミールの部屋着を仕立てて頂けませんでしょうか。