スポーツは、愉しいものですね。スポーツは観ても愉しく、実際に参加しても、愉しい。
スポーツの種類、いったいどのくらいあるのでしょうか。たぶん数えきれないほどの数があるのでしょうね。
でも、英国人にとってのスポーツはたったひとつ、クリケットがあるだけ。日本人にとっての相撲に似ているのかも知れません。とにかくクリケットは、「国技」だと考えられているほどなのですから。
そんなところから、「イッツ・ノット・クリケット」の言いまわしも生まれたのでしょう。クリケットではない。これは実際は、「正しくない」の意味になります。というよりも、イギリス人はよく口にする言葉のようです。
クリケット cricket には大きく二つの意味があります。スポーツのクリケットと、昆虫のコオロギとの。一説に。クリケットで球を打つ時の音が、コオロギの啼き声に似ているから、とも。
そういえば、クリスチアナ・ブランドが、1968年に発表したミステリに、『ジェミニイ・クリケット事件』があります。どうして「ジェミニイ・クリケット」なのか。これは英国では「ジーザス・クライスト」の暗喩として用いられることがあるんだとか。あからさまに「ジーザス・クライスト」とは口に出しにくいので、その代りに、「ジェミニイ・クリケット」と。
クリケットの出てくる小説に、『回想のブライズヘッド』があります。イーヴリン・ウォーが、1945年に発表した物語。
「お国のスポーツ、つまりクリケットですよ」
会話の途中、「スポーツ」の話になって。あらためて確認する場面での科白。英国で「スポーツ」と言ったら、まずクリケットを指すのでしょう。
『回想のブライズヘッド』には、こんな描写も。
「ブライズヘッドは、真紅の上衣を着ていた。自分も白のストックで顎を高く持ちあげた…………………」。
これは朝、食堂におりてきたブライズヘッドの着こなし。ストック stock は、ややクラッシックなクラヴァットのこと。
筒状の、クラヴァット。頸にぴったりフィットさせて留める式のアクセサリー。今でもよく正式な乗馬服にはストックを合わせることがあります。
つまりストックはスポーツにもふさわしいネック・ウエアなのでしょうね。