アイヴォリーは、象牙のことですよね。象牙は適度に硬く、適度に柔らかくもあるので、加工に向いている素材なのです。日本でも昔から、多く印鑑や根付が作られたんだそうですね。
アイヴォリーはまた、石鹸の銘柄でもあります。「アイヴォリー石鹸」。アイヴォリー石鹸、そもそものはじまりは、1879年のことなんだとか。その時の名前は、「ホワイト・ソープ」。これは、「水に浮く石鹸」が謳い文句だったそうです。
それが1880年頃になって、「アイヴォリー石鹸」に。ある時、石鹸会社の重役が、教会に。牧師が説教を。
「汝のすべての衣は象牙の宮殿より出でし………………………」。
これに想を得て「アイヴォリー」となったと、伝えられています。
「上田はアイボリー石鹸のやうな顔生地をしてゐる。」
明治四十四年に、田村俊子が発表した『あきらめ』の一節。これは顎がしゃくれた顔の意味なんですね。アイヴォリー石鹸では、顎がしゃくれたおじさんのマークを使っていたので。
『あきらめ』は田村俊子の第一作。田村俊子、二十七歳の時。では、その以前の田村俊子は何をしていたのか。女優。今、写真で見る限り。それはそれは、お麗しいお方。古今東西の作家の中で、一、二を争う美貌ではないでしょうか。もう一度、『あきらめ』に戻りますと。
「花澤のレース編みのネクタイがだらりだらりと動く。」
明治四十年代に、レエスの編みタイがあったんですねえ。
せめてニット・タイを結んで。田村俊子の初版本を探しに行くといたしましょうか。