フェリペは、男の子の名前ですよね。ことに、スペインに多いようですが。
今のスペイン国王も、フェリペ六世であります。フェリペ六世よりもずっと前に、フェリペ二世の時代がありました。時は十六世紀。十六世紀のスペインは、「陽の沈まぬ国」と讃えられたものです。広大な領地を持った先進国でありました。
十六世紀をひと口に申しますと、「ラフの時代」。貴族たちは皆、老若男女を問わず「ラフ」r uff を頸にあしらったから。というよりもラフは複雑きわまりないカラーだったのです。
今「シガール」という名前の細長く巻いた葉巻のようなサブレがありますね。あのサブレを純白にして頸にとりつけたようなカラーだったのです。
むろんラフにもいろんなスタイルがありました。が、いずれもひとつひとつの襞を専用の鏝で丸く仕上げてもの。毎日毎日、ラフだけを仕上げる専門の職人がいたのであります。
十六世紀のスペインを統治したのが、フェリペ二世。フェリペ二世の肖像画にも、もちろんラフを飾った優雅な様子で描かれています。
フェリペ二世と英國とも無縁ではなくて。一時期、かの有名なメアリー女王と結婚してもいました。残念なことには、二世を育む以前に亡くなっているのですが。
このフェリペ二世の臣下でもあったのが、セルヴァンテス。あの『ドン・キホーテ』の作者、セルヴァンテス。本名は、ミゲル・デ・セルヴァンテス・サヴェードラであります。1557年9月29日頃の生まれだと考えられています。余談ですが。セルヴァンテスもまた、ラフを愛用した人物。ということは、ドン・キホーテもまたラフを着用することがあったでしょう。
『ドン・キホーテ』の中に。
「身に鎧う鎖帷子よりも、装っている金襴、緞子、その他豪華な織物の衣ずれの音を響かせている。」
当時の騎士の様子を、そんなふうに描いています。「鎖帷子」は、その名の通り、チェイン・アーマーで。こちらのほうが音を立てるはず。でも、絹があまりに凝っているので、衣摺れの音が。
衣摺れは絹ずれの音でもあって。フランスでは、「フル・フル」
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シャンソンにも、『フル・フル』と謳われているくらい。今の時代には、貴婦人だけの音色。十六世紀には男のフル・フルもあったとは、羨ましいものです。